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47:恋とはどんなものかしら?


******


 今夜()朱羅との逢瀬。実はすでに複数回を数えている。


 と言うのも、あの告白依頼、彼は積極的に我が家へ訪ねて来るようになった。蓮生さんのように事前約束ではなく、仕事終わりに我が家へお誘いに来るスタイルだ。


「誘ってくれるのは嬉しいけど、仕事とか大丈夫? 無理してない?」

「見ての通り健康そのものだろう? それに久遠殿とは何度か逢瀬をしていたではないか。私だけ遅れを取りたくはない」


 こうして敢えて約束を取り付けずふらっと現れて「出掛けよう」と誘ってくれる形は、今までと変わらない感じがして気負わずに済む。お陰で二回目以降はごく自然体で接することが出来るようになった。


「初めはあんなにガチガチに緊張していたのに、すっかり慣れてしまったようだね」

「もう! あれは忘れてよ」


 最初の逢瀬はきちんと事前約束をしたものだった。それも軽く正装し、王子様然とした朱羅の姿に目が潰れるかと思ったくらいだ。

 私の服もいつの間にか用意されていて、家族から温い視線を向けられながら出て行く恥ずかしさったらなかった。


 私は告白直後と言うこともあって必要以上に意識してしまい、手足が左右一緒に出るくらい緊張していた。お陰でせっかくの食事も喉を通らないと言う、甘酸っぱさ皆無のしょっぱい黒歴史が刻まれた結果となった。


「あの日は初回の記念にと思って私も張り切り過ぎたようだ。鈴の好みの食材ばかりで作らせたと言うのに、当の本人が食事が喉を通らないほどの緊張するとは思わなかったよ。まぁ、私を意識して緊張する姿は新鮮ではあったのだけど、やはり笑っているお前を見たいからね」

「朱羅はああいったお店も慣れているかもしれないけれど、うちは庶民派だから。父さんと叔父様が兄弟だって言うのも世界の神秘だよ」


 父は酒場でガハハと笑いながら大口で串焼きを齧れるようなタイプだけど、叔父様は叔母様の教育もあるのかもしれないけれど、葡萄酒や前世で言う日本酒のようなものをゆっくりと楽しむタイプである。

 そんな家庭で育った朱羅も当然そんな感じなので、丼をかき込んで食べたり、落とした物を三秒ルールとか言って食べる姿など見ることはない。


 あまりの違いに、我が家は身内と語っても良いものかと不安に思う時もあるくらいだ。


「さて、鈴の好みで行くと、今回は食べ歩きはどうかな?」

「食べ歩き? 今日はお祭りなんてあったっけ?」


 配達をしていれば、自分のエリア内なら祭の貼り紙なり、前準備などを目撃しているはずなのに記憶にない。


「聞いた話では、中心地にある新しい酒場街は好きな酒の肴(ツマミ)だけを買って食べることができるらしい」

「へぇ~、私は酒場は行かないから知らなかった」


 正しくは許可が出ないので行けないだけだけど。


「中心地は賃料が高い上に狭いからね。持ち帰って家で飲みたい者も一定数いるし、店内を利用しない客層も取り込みたいのさ」

「おツマミって美味しいもんね。店ごとの名物もあるだろうし」

「では各店の名物を購入してみようか」

「やった!」



***



 揚げ物、焼き物、串焼き、サンド、甘味、焼きおにぎり等、分け合って食べればたくさんの種類が食べられるよねと思い、あれもこれも買ってもらったものの……ずらり並べるとその品数の多さに「あれ? これ、食べきれる?」と冷や汗が垂れる。



「朱羅が少食だって忘れてた……」


 朱羅が終始ニコニコと「これ美味しそうだね」と私が言うと「では、これを一つ」と気前良く購入していて、どこも一つだったり数個程度だから大丈夫かなと思い込んでいた。しかしまさに今、塵も積もれば状態に陥ってしまったわけだけど。


 どうして途中で止めてくれないのかと問えば、「いつも少食なお前が沢山食べようとしているのは喜ばしいではないか」と……だから機嫌が良かったのか。


「私は思うのだが、鈴の弁当ならそれなりの量を胃に収めることが出来るのだから、案外不可能ではないのではないか?」

「そっか! そうだよね!!」


 考えてみたら、朱羅は三段重のお弁当をペロリと食べ、焼き菓子まで食べていた実績はある。その勢いであれば完食も不可能ではないでは!?




「うっ……もう無理。もう一口も無理……」


 私は食べたいと強請った手前、頑張って食べたけど、お腹はすでに限界を迎えていて白旗を揚げることになった。



 そして不可能を可能にすると言った朱羅も「ふむ。やはり私の胃袋は鈴の手作りにしか対応してくれないようだ」と言って、通常よりは食べた程度で私よりも先に戦線離脱してしまった。云わば女子盛程度……戦力外もいいところだ。

 

 ちなみに手を付けていない食べきれなかった分は、父と陽兄の夜食にすることに決めている。




「さて、そろそろ戻らなくてはならない時間だね。歩けそうかい?」

「うん……苦しいけどなんとか」


 お腹が重い私を引き揚げる為、差し出された手を掴む。


 朱羅は逢瀬の時間は所々恋人のように振舞う。普通に手を繋いだと思うと急に指を絡ませてみたり、その度に私の反応を見ている――ように思う。


「ふぅむ……私が自然に振舞い過ぎなのか、鈴がそもそも手繋ぎ程度ではなんとも思わないのか。それとも私がお前に告白をしたこと、忘れているのかい?」

「失礼なっ! 忘れてないし。朱羅と手を繋ぐことに元々抵抗がないからだと思う。昔から誰かしらに手を繋がれていたでしょう? それに、手を繋ぐの結構好きなの」


「そうか、私も好きだよ。鈴の小さな手は温かい」

「朱羅の手は指が長くてすらりとして、少しひんやりしてるもんね。そう言えば、蓮生さんはごつごつしてて温か――」


 話しを遮るように、朱羅が人差し指を立てて私の唇に当てた。驚いて彼の方を見ると、困ったように眉尻を下げて微笑んではいるけれど、ちょっと……怒ってる?


「鈴、お前を好きだと言った男の前で、他の男の、それも恋敵の話をするとは中々の悪女ぶりだね。嫉妬と言うものは中々感情の操作がままならないのだよ? まぁ、嫉妬に狂った私を見てみたいと言うのであれば、別の一面を見せてやるのも吝かではないが」

「すみませんでした!! 私が浅はかでした。朱羅の言う通りだし、私が悪い。気を付けるから、その一面は見なくていいです」


「残念。結構貴重だと思うのだけどね」とまるで冗談だったかのように、ふふっと笑っているけれど絶対本気だった。うっかり対照的だなぁなんて思ってしまったが故に口に出してしまったけれど、デリカシーに欠ける行為だ。



 きちんと頭では理解しているのだ、”彼は私が好きなのだ”と。



 だけど、どうしても”優しい従兄”として過ごして来た時間の方が圧倒的に長い分、油断すると朱羅(異性)ではなく、朱羅兄(従兄)として接してしまいがちになる。

 

 この切り替えが私には中々難しい。


 そしてそんな私に朱羅はきっと気付いているから、時折意識させようとするんじゃないかと思ったりもする。


 初回の時のような、王子様然とした朱羅の演出は、確かに普段とは違っていてドキドキはしたけれど、普段の朱羅像から離れていてちょっと私には馴染めなかった。と言うより、隣に立てない感覚になるので遠慮したい。


 告白を受けた直後は、今後は彼の言うように私もきちんと異性として意識して行こうと思っていた。でも、ふと気付いたのだけど、こうして”朱羅を()()()()()異性”だと思うことって、自然と思うものと違って不自然と言うか、自分の思いを曲げてまでしなければならないものなのだろうか、と。


 朱羅は昔から家族とは独立した括りで大切な存在だった。両親にはお互いがいるし、陽兄にはアキちゃんがいる。私と朱羅にはまだそういった相手はいなかったから、朱羅は私を甘やかし、私は「朱羅の健康は私が守る!」と言った意気込みを持っていた。


 だからだろうか、朱羅は昔から私の特別で、大切な人で、絶対に幸せになって欲しい人なのだ。それは告白後も変わらない、嘘偽りない想いだ。


「ねぇ、朱羅」

「なんだい?」


「どうして私だったの?」

「どうして、か。どうしてだろうね」


「え、わかってないの!?」

「ふふ、まさか。ただ、昔のことだから。最初のきっかけは……そうだね、鈴とのきっかけは、いじらしくも一人で人形遊びをしていたのを見た時かな。守れる力を手にしているのだから、私が守ってやりたいと思ったものだよ。まぁ、実際は中々素直に守らせては貰えないのだけどね」


 ぼっち遊びを見てキュンとしたってこと? 人はそれを『同情』や『庇護欲』と呼ぶのではないだろうか。


「ちゃんと守って貰っていたことはわかってるし、感謝もしてるよ。でも小さな頃はともかく、私だって自力でどうにか対処できるようにはなりたい。最近は特にそれを強く意識するようになって来て――」

「鈴、その件はこの間謝罪しただろう? あくまでも私はきっかけを聞かれたから話したまでだよ。お前との口論も関係が進んだ先にあるのであれば刺激にもなるだろうけど、今はできれば避けたいところだね」


 そうだった。自分で聞いたくせに、守る、守られる話になると、今の私は少々過敏な反応をしてしまうようだ。


 すぐに謝罪し、話題を戻す。


 なんせ、ぼっち遊びを見てキュンと来て、そこからなにがどうして恋心に変わっていったのか気になるところ。


「なにも一人遊びを見てすぐに恋心が芽生えたわけじゃない。同情が欠片もなかったと言えば嘘になるが、自ら甘やかしてやりたいと思えたのは鈴だけだ。そしてお前が私に甘えてくれることも、向けてくれる笑顔も、昔から一等好きなのだよ。お前の笑顔は私に愛おしさと喜び、懐かしさ、それに……色々な感情を与えてくれる。ただ、これも情けないが甘やしているつもりで、私の方が鈴に甘えていたりするのだけどね」

「甘やかすって私が? う~ん、お弁当とか、ブラッシングのこと? どう考えても朱羅の方が多いと思うけど」


「きっと、お前の記憶に残っていないだけだろう」


 朱羅は僅かに視線を下げ、少し自嘲気味な笑みを浮かべていた。


 なんだか聞いたことに答えてはくれているけれど、どうにも釈然としない。嘘でもないけれど、私の解釈ではなにかすれ違っているような?


 好きになった思い出を語っている割に、どこか寂しそうな色がちらつくのは、夜が彼の顔に影を落とすから?


 男女の違いはあるのかもしれないけれど、そういうことを思い浮かべる時ってもっと幸せそうなオーラが出るものじゃない? 彼を知ろうと近付けば、なぜか距離を感じるような、でも好意はきちんと伝わってくると言う。まさに彼はミステリアスな人だ。


「朱羅あのね、私、今は兄としてではなくて、異性としての朱羅を知ろうと思っているんだけど、正直よくわからない部分もあるの」

「そうか……それは困ったね」


「でもね、そこも朱羅の魅力なのかなって。隠し事って思うと悪いみたいだけど、謎めいた人って言うとちょっと格好良いじゃない? それに私だって全てを曝け出しているわけじゃないし……まぁ隠していてもバレることが多いけど。だから、言いたくないことは無理に言わなくてもいいよ」

「……ふふ、お前は時々鋭いことを言うね」


「ううん。そうなのかなって思った程度で、それが何なのかとか、これかな? みたいな予想もなにもないから全然鋭くないよ。朱羅だって私にそうするように、私だって朱羅を困らせたいわけじゃない。悩ませて困らせるくらいなら、知らないままでいいの」

「お前も大概私に甘いね。普通は『好きなら隠し事はするな』と言ってもいい所だろう?」


「でも、きっと朱羅だって同じでしょう? 私達、結構似た者同士なんだよ。お互いを大切に想ってる」

「いいや、お前の素直さはいつだって私には眩しい。だが、互いを大切に想っていることに関しては同意するよ」



 家の前にはすでに着いていた。もうそろそろ決められた時間になる。身内朱羅としてではなく、求愛中の立場とするなら蓮生さん同様に門限があるのだ。

 

「夜の逢瀬は二人だけの世界を手に入れたようで私は気に入ってはいるのだけど、別れには未だ慣れない。二人だけの世界から一変して、孤独な世界へ戻らなければならないのだからね」

「確かに灯の着いている家に帰るのと、真っ暗な家へ帰るのでは寂しさも違うよね。でも、また明日も会えるでしょ?」


 逢瀬がないにしても、配達日はほぼ毎回確実に会っているし、話もしている。私としては以前よりも格段に会う機会が増えているので、嬉しさの方が大きい。


「……明日も会える、か。そうだね、鈴の言う通りだ。どうやら()()()が欲深かったようだ」

「欲深い??」


 名残惜しそうに繋いでいた手をゆっくりと解いた。


「いいや、こちらの話だ。珍しく鋭かったものだからもしや、と思ったのだけど。やはり鈴は鈴だね」

「もしかしなくても、私馬鹿にされてる?」


 ここまで(多分)順調に分析を進めていて、更に『鋭い』なんて評価まで貰ったと言うのに、どうやら私の回答は期待したものとは違っていたらしい。


 容赦ない低評価への格下げにちょっと凹む。

 

 恋愛って難しい。


 自分の気持ちだけを押し付けるのではなくて、相手の気持ちにも寄り添い、うまく折り合いをつけて行く。そんな器用なことが自分には出来るだろうか? それともまた複雑に考え過ぎているのか。



 そもそも肝心の、恋心ってどうやって芽生えるのだろう。


 恋をしたら『これは恋だ』と自分でも気づくことが出来るのだろうか。




 恋って――



 




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