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38:GTOと思わぬ再会


******



「今日は手際良く仕事が終わったぁ~!」


 ふふふ、私もいよいよ上級配達員に近付いて来たんじゃない?


 なんて、そもそも普段よりも配達量が少なかっただけなんだけど。まだ全然明るい時間帯に仕事から解放されているのは、やはり気分が上がるというもの。


「戻りがてら新しい裏道、近道探しでもしてみようかな。知ってると知らないとじゃ配達時間も変わるものね」


 時間的余裕もあるので、鼻歌でも歌いながら普段の道とは違う裏通りの方へ回ることにした。


 最近陽兄から聞いたのだけど、この先の行き止まりだと思っていた道に、実は脇に抜けることが可能な細い道が存在しているというのだ。少し細いけど私なら可能だろうと言っていた。


 以前、兎月さんに効率の良い回り方を伝授して貰ったけれど、ここでショートカットできれば更に時短に繋がる。もはやメリットしかないのなら行くっきゃない。


「ええと、陽兄の汚い図面によれば多分……ここね。真っ直ぐ見ると行き止まりっぽいけど。あ、ホントだ、道がある!」


 細い路をスイスイと抜け出ると、見慣れた通りに出た。


「……ヤッター! 本当に繋がってた!」

「レディ、喜んでいるところ申し訳ないが、迷える紳士を助けて貰えないかな?」



 声の方を向くとそちらは丁度逆光で、相手の顔がハッキリと確認できない。ただ、身なりがこの国の服装とは違って、留学先のオランドラではよく見た洋装のスーツを着て帽子を被っていた。

 

 耳、尻尾がないようだし、嗅覚が鈍い獣人でもまずつけない、少し香りの強い香水をつけているのは……人族?


(でも、なんか聞き覚えのある声のような?)


 警戒の為、二、三歩下がったところ、相手も怪しい者ではないと帽子を降ろす。


「私はオランドラ王国からやって来た――」

「ガードナー先生!?」


「ああ、まさしくガードナーだが……やあやあ! 君はよく見れば、()()()()()リン嬢ではないか!」

「違います! これは仕事着です! それより、どうして先生がこんなところに?」


 怪しい紳士はなんと留学時代に大変お世話になった、副学長も務めながら教壇にも立っている、エインリッヒ=ガードナー先生だった。

 大人しく座っているのは性に合わないと言って、魔法基礎や実技、騎士団への魔法指導なんかもしているのに、全く偉ぶったところもない、まさにGTO――グレート(G) ティーチャー(T) ガードナー オブ オランドラ(O)――と呼ぶに相応しい先生なのだ。


 ちなみに私は男装好きではない。ナインテイルでは定番のチャンパオ――下がズボン――をよく着ていた為、初めに『男装令嬢なのかな?』と聞かれたことから、時折こうしていじってくる。


 あちらでは女性は庶民であってもワンピースや丈の長いスカートを履いている。私も制服はもちろん、普段着もなるべくならスカートを着るように努力したけれど、走り回ったり、乗馬となるとチャンパオの方が都合が良くて着るのをやめられなかったのだ。



「いやぁ、実は一年ほど休みを取っていないことに最近気付いてね。久し振りのバケーションだ」


 僕も年を取ったのかなと笑っているけれど、魔力量が多いガードナー先生は、見た目が二十代後半~三十前半に見える。現在は確か四十歳を迎えたくらいのはず。

 その年齢になっても好奇心旺盛なところや、身軽なフットワークはご健在のようだ。


「バケーションはいいですけど、行き先は伝えていない、なんてことは流石にないですよね?」

 

 見た感じでは、本当に一人ぶらり途中下車の旅のような気楽さで他国まで来ているように見えるので、少し疑わしい。なんせ、ガードナー先生だ。

 

「もちろんだとも。()()()()くらいはしてある」

「置き手紙だけ!? まるで家出みたいじゃないですか!」


「行き先さえわかれば十分さ。僕の周りの人間はそういうことに慣れているからね。しかし休暇を忘れたお陰で長期休暇を取れることになり、こうして遠く離れた国にいる教え子の顔を見に行こうなったわけだ」

「そして見事、道に迷ったわけですね? ナインテイルには案内地図がざっくりしかないですし」


 先生はキョトンとした後、思わずといった様子で大笑いし始めた。先生はとにかくよく笑う。


「リン嬢も僕のことを中々よくわかっているじゃないか! それなら話は早い。まず道にも迷っているんだが、来て早々財布を無くしてしまって今は一文無しなんだよ」

「それを早く言って下さいよ! 警吏に被害届けに行きましょう」


 迷子なんだアハハ、の前にその話はしましょうよ!


「いや、いいんだ。船上でなのか、上陸してからなのか、もしかしたら僕がその辺に落としてしまったのかもしれない。幸い帰りの船のチケットは別にしていたから無事だしね」

「だからって、一文無しでは宿泊にしても食事にしても困るじゃないですか」


「そう思って、魔石でもどこかで売れないかと店を探してフラフラ歩いていたんだよ」

「魔石を? どうして魔石なんて……先生には不要でしょう?」


「なにかしていないと暇ではないか。リン嬢への土産の一つとして渡してもいいかと、ほら、船に乗っている間に火と水の魔石を作った。小ぶりだが質は保障しよう」

「ええ!? 先生お手製! 高く売れるんじゃないですか?」


 旅行鞄から取り出した巾着の中に小ぶりではあるけれど、赤と青白く色付いた魔石が三十個ほど入っていた。私は専門家ではないけれど、家で使用している比較的安価な家庭用の魔石よりも輝いて見える。魔石そのものが上質なものに違いない。


 この国で魔石は宝石店で管理し、取り扱っている。空になった魔石は宝石店へ持ち込み、満タンのものと交換してもらうのだ。


「この魔石はナインテイル産の上質なものだからね。このサイズでもそこそこ値は張るが、その分長く使える」

「オランドラでも魔石は多少採れるのに、王城や貴族様の邸宅ではナインテイル産のものが多く使われているんでしたよね」


 属性付与された魔石を動力源としている便利な生活魔道具は、オランドラでも広く使用されている。いくら皆が魔法を使えると言っても、全属性持ちなわけではない。

 あちらでは空の魔石に、例えば火属性を初めに付与してしまえば、その魔石の魔力が空になっても火の属性は持ったままになる。初回以降は空になったら自分の魔力を込めることで、割れて寿命を迎えるまでまた繰り返し使用できるのだ。この辺は充電式乾電池と少し似ている。



「悔しいがそうだね。まぁ、君達も便利な生活魔道具を知ってしまったら、もう戻れないのと同じさ」

「それは間違いないですね」



 長く友好関係にあるオランドラはその技術や魔道具を、ナインテイルは動力源となる魔石の安定供給をと言った協定を結んでいるのだ。



 ここ最近の最新生活魔道具談義に花を咲かせていると、行きつけの宝石店へ到着。昔は危険だからと許可されなかったけれど、留学中に魔石への魔力の込め方はしっかりと習ったので、今では私が実家の魔力補充をしている。


 そうは言っても、ちょこちょこ切れるものではない為、半年に一回とかそんな程度である。それでも電球が切れた時にすぐに替えの予備電球があった方がいいように、予備魔力()がいた方が便利だよねってことで。


 思った通り……いや、それ以上に先生の作った高品質の属性付与済の魔石は高値で買い取ってもらえた。むしろ失くした財布の中身よりも増えてしまい、「今度はスリに遭わないように気を付ける必要があるなぁ」とからからと笑う。


 取り敢えず、受け取ったお金を入れる財布をすぐに買いに走った。


 財布の購入も済ませ、仕事道具などを置きに一度自宅兼事務所へ立ち寄る。両親に紹介したかったけれど、タイミング悪く皆留守で、先生を宿まで送って来る旨の書き置きを残して、また出掛けた。



 先生が目星をつけていた宿の名前とざっくりとした地図を見れば、毎日のように通っている四神基地本部の近くの品の良い宿で、安全性で言えば確かに良い場所を選んだと思えた。

 

 そう、選ぶまでは……


 宿のカウンターへ声を掛け、予約名を告げる。


「はい、エインリッヒ=ガードナー様ですね。ええと……ご予約は頂いてないようですが?」

「それはそうだ。これからしようと思っていたからね」

「え!」


 天才は思考回路が異次元に繋がっているらしい。先生がなにを考えているのかわからない。

 

 トラベラーズハイにでもなっているのだろうか?


「先生、予約もしていないって何を考えているんですか! 幸いまだ空室があったから良かったですけど、なかったらどうするつもりだったんですか?」

「ハハハ、それならそれで警吏に相談するか、適当な野宿場所を探していたさ。こう見えて僕は冒険者にも憧れがあってね、今でもたまに屋敷の庭で野宿することもあるんだ。主に妻を怒らせてしまった時だけどね」


 それは俗に追い出されたと言うのでは? そもそも旅行じゃなくて冒険に来たのですか?


 人族は弱いとは言っても、先生は高魔力保持者で騎士団へ指導が出来る程の実力者でもある。魔法は授業でも見ているけれど、戦う先生は見たことがない。それでも、私のようなモブ人族とは格が違うので、先生なら野宿も可能かもしれない。

 

 そもそも自衛が出来ないのなら、一人でぶらりと他国に来たりはしないだろう。


「取り敢えず宿と食事の確保が出来て良かったです」

「持つべきものは、気の利く弟子だね。君からの手紙の住所を見て訪ねようと思っていたが、僕が持っているのは以前の住所のものだ。無駄足にならずに良かったよ、いやぁ運が良い」



 両親どちらかが家にいれば先生と夕食を摂っても良かったけれど、送ってくるとしか書いて来ていない為、今日は無理だ。

 ガードナー先生とはまだ募る話もある。幸い明日は私もお休み、食事でも一緒にどうかと誘ってみたところ、「もちろんさ」と快諾してもらえた。



 帰宅後、家族にもガードナー先生の話を伝えたところ、やはり皆、私と同じようにぶらりと一人でやって来た先生に驚いていた。しかも出会いは無一文だったし……



「明日は楽しみだな。ふふ、先生はこの国の食事のボリュームに驚くかも」


 私はオランドラで量の少なさに驚いたけど。


 明日は魔法のことや、留学時代に出来た友達のことなど、話したい、聞きたいことはまだたくさんある。


 

「早く明日にならないかなぁ」




――と言ったのは私だ。言ってしまったとも。



 だからって、まさか先生が朝から我が家に訪ねて来るとは思わなかった。そもそも紳士が未婚女性の実家へ単身やって来て「朝食でも一緒にいかがかな?」と言うと誰が思うだろうか?


 


 しかし、この先生の遠慮のない言動や行動は、後に私が将来を考える大きなきっかけとなり、感謝する日が来るのだけれど、この時の私はまだ「勘弁して欲しい」としか思っていない。



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