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三毛猫は見た!:副隊長の背中から学ぶ恋愛戦術 / side 三ヶ谷 千寿

◆◆◆◆◆



 昨夜は郊外に逃げたと言う強盗犯を追って隣町まで行く羽目になり、戻ったのは夜勤明け交代もとうに過ぎた昼頃だった。



「はぁぁぁ、マジで眠い。かと言ってガッツリ寝るとそれはそれで良くないんだよなぁ。とりあえず腹になにか入れてからにするか。朝も食べ損ねてたから昼まで抜くわけにはいかないし」



 昼時というだけあって、人気店は軒並み混雑していた。


 休日ともなれば、それこそ恋人同士や家族連れが多く、一人でそれらに挟まれながら黙って列に並ぶのは、最近失恋したばかりの身には辛いものがある。



 溜息をつきながら歩いていると、どことなく聞き覚えのある声を耳が拾った。



「久遠さんはこのお店はよく来られるんですか?」

「俺も来るのは初めてなんだ。部下から美味しいと評判だと聞いて、君とどうかなって」


(あれは久遠副隊長と……碧海郵便の鈴さん? なんでこの二人が? もしや、副隊長の想い人って鈴さんだったんッスか!?)



 オレは咄嗟に建物の影に隠れた。あまり近付けば、副隊長にはすぐに気付かれてしまう。



 歓迎会で兎月さんに酒で沈められたオレは、結局想い人が誰だったのか、わからず終いだった。


 気になる、すごく気になる!! あの店はオレがおススメした店で、盛り付けもキレイで美味しいと妹も言っていた店だ。

 

 オレの隊での評価はわからないが、少なくと私的なところでの”副隊長の恋を応援し隊”評価では、副隊長の腹心と言える位置にいるのではないか……と勝手に思っている。

 

 なにが言いたいかというと、つまりはちょっとくらい様子を見ても許されるんじゃないか?


 ほら、今後の逢瀬計画において、甘味好きならこことか、記念日にはこことかあった方が良いと思うし、副隊長が気付かない点とか、冷静な第三者の視点もあった方がいいと思うんッスよね、うん。

 


 よって、オレは見る。



「そうなんですね。色使いとか外観なんかも女性好みな雰囲気ですし、男性は一人では入り辛そうだなって思って。並んでいる人を見ても女性同士か、男性は恋人か親しい女性同伴って感じですもんね」

「確かにそうだな。こういった男性一人では入りにくい店は、今後も鈴に付き添いをお願いしてもいい? 俺が誘いたい女性は君しかいないし」



(す、すごい! あの副隊長が攻めの姿勢を取っている! これは鈴さんも『え、私だけ♡』ってなるだろう。



「確かに(契約中)は難しいかもしれませんね。でも、せっかくですから、たまには久遠さんのお母様とか、お身内の女性の方とかを誘ってあげたら如何でしょう? 絶対喜ばれると思いますよ!」



(鈴さーん! 「君しかいない」って言ったのに、身内を薦めるって!!)



 あくまで100%善意で言っているとわかる満面の笑みで「以前、兄が母を誘ったことがありまして、照れてましたけど嬉しかったって母が」と嬉しそうに語る鈴さんを、「鈴の家は本当に家族の結びつきが深いんだな」と褒めそやす。



「だが、母や親戚もいいけど俺もいい歳だし、行くならやはり君とがいいな」



(話は聞いた上で「君とがいい」ってはっきり言った! これでもう伝わったはずッス)



「恥ずかしいですか? 絶対、久遠さんのお母様も喜ぶと思うのに……」

「ああ、うん……少し。それはまた別で母親孝行はするよ」



 

(副隊長ーーーーーーーー!!!) 



 こっちがびっくりするほど、好意全開で伝えているのに、なんで鈴さんには1ミリも響いていないんスか? 鈴さんは魔性なのか? 普通に鈍感な子? もしくは相手が副隊長だから現実味がわかないとか……それはあるな。


 君が特別だとほとんど言っていたのに、明らかに残念そうな顔で「親孝行する気ないんだ」みたいに取られて……今の会話は親孝行するかしないかの話じゃないでしょう、鈴さん!……副隊長が不憫ッス!



 そう思っていると「列が進んだみたいだよ」とか言って、副隊長ってば、めげずに手を引いているように見せかけて、がっちり手を繋ぎに行ってるじゃないですか!?



(あれも鈴さんは何とも思わないんスか?)



 副隊長は()()()と言ったのだから、二人の関係性は、今は友達以上、恋人未満? あれ? 最近の噂では、副隊長はお付き合いされてるって話だったような? でも鈴さんの口ぶりと態度を見ても、とても付き合っているような雰囲気には見えない。 


 親衛隊からは「微笑んでくれない隊員」の上位に常に位置していた副隊長が、これでもかと言うほど甘く微笑んでいると言うのに、全て跳ね返されている。


 尻尾だって気付かせないように、ゆっくりふわんふわんと夢見心地でゆらゆらして……本当は腰にくるりと回して引き寄せたいのに、行ったり来たりして必死に我慢を……わかる! わかるッスよ!



(副隊長の自制心が凄すぎるッス!!) 



 あんなのオレには到底真似できない。あ……だからフラれたのか。グスッ



 これはあれだ、決して尾行なんかじゃない。



 後学の為、先輩の背中を見て学ばせて頂きます的なやつだ。それにたまたま居合わせただけだし? オレもこの店入りたいと思っていたから偶然中の偶然だ。

 

 

 オレは素知らぬ顔で、列の最後尾に並んだのだった。



◆◆◆



 思いの外並んでいたの為、オレが入店した頃には食事があらかた済んだ後だった。少し残念に思ったものの「鈴、もう少しお腹に余裕があったら、この”アイスクリン”って言うのも食べないか? 今だけ限定のイチゴ味って書いてある」と言って、注文していた所だった。


 通された席は運良くお二人が見える位置で、目の前には仕切り(パーティション)があったものの、デザイン上隙間が所々にあり、むしろバレずに観察しやすそうだ。

 

 オレは耳を傾け、雑音も混ざりながらもなんとか二人の会話を拾っている。



「ここのお店は全体的にオランドラ風と書いてありましたけど、量とか味付けなんかはナインテイルに馴染むように工夫しているのか、とっても美味しかったですね。盛付け大皿料理を取り分ける形式ではなくて、一皿一皿お洒落に盛付けてあって参考になりました」

「店の雰囲気は堅苦しくはないのに、出される料理は結構本格的で驚いたな」



「特にあれが美味しかった」とか、「久遠さんは足りましたか?」とか、彼女が話している姿を一瞬も見逃さないとばかりに、終始笑顔でうんうんと相槌を打ちながら見つめていた。



 対面で座るお二人のテーブルにコーヒーとアイスクリンが運ばれてきた。もちろん、副隊長は国産テイルズコーヒーのブラックだ。



「久遠さんは甘味を頂かないのに、私だけアイスを頂くのって、やっぱりちょっと気が引けますね」

「俺は代わりにコーヒーを飲んでいるんだから、気にしなくていい。でもそうだな、ちょっと今日のコーヒーは苦みが強いみたいだから、口直しに一口そのアイスを分けてくれないか?」


「苦いんですか? 砂糖、お願いしましょうか?」

「いや、それではコーヒーが全て甘くなってしまうから。ほんの少し口直しが欲しいだけなんだ」


「なるほど。辛い物を食べていても、甘くしたいわけじゃないですもんね。最後に痺れた部分だけなんとかしたいみたいな!」

「そういうこと、なのかな?」



 副隊長も実は「あ~ん」に憧れがあったんですね! わかる、わかります! でも上官の「あ~ん」を見てもいいのか、どうなのか……揺れる尻尾を抱き締めながら、もちろん見守らせて頂きやす!


 鈴さんは……キョロキョロし出したけど、周りを気にしているのかな? そうだよね、さすがに照れるよね!! 見てるこっちも照れるけど。


 さあ、アイスの乗ったスプーンを副隊長に……って、あれ? カップに戻したぞ?



「すみませーん、スプーンをもう一本頂けますか?」

「え!?」


(えぇ!?)



 まさかの!? 鈴さん、違う、そうじゃないよ!! 副隊長は「あ~ん」をご所望なだけなんだよ。アイスなんて正直あってもなくてもいいんだよ!!


 目の前に座ってる人を見て! あの貼り付けたような笑顔、『なるほど、想定外だな』って絶対思ってる顔だよ!!

 


 これは失敗に終わったのかと視線を外すと、「きゃっ! 久遠さん!?」という声が聞こえてきて、慌ててまた視線を戻す。


 見れば、副隊長が鈴さんのスプーンを持つ手の手首部分を掴んでいて、鈴さんは顔を真っ赤にしていた。



「せっかく店員さんを呼んだのに、急にびっくりします! それに、これ……私が使っていたスプーンですよ」

「すまない。どうしても口の中がスッキリとしなくて我慢できなかったんだ。でも、甘くてとても美味しかった。ご馳走様」



 副隊長の力業!? 未使用スプーンが来る前に、自ら「あ~ん」を叶えたんですね! それに持って来てもらったスプーンも断っている辺りがさすがッス!

 ちなみにここのコーヒーはまろやかで香ばしく、とても美味しいのでおススメッスよ。



「……あの、食べたなら手を離して下さい、私が食べれません」

「そうだな。早く食べないと溶けてしまいそうだ」



 見ているこちらも溶けてしまいそうなトロリと甘い視線を鈴さんに向けている副団長。良い子は見てはいけないッスよ!

 どういうわけか、右手で鈴さんのスプーンを奪い、左手は握ったままで、今度は逆「あ~ん」を実行し始めた。



「え? え? なんで久遠さんが……あと手も離、ぁむっ!」

「鈴は今、手が塞がっているからね。俺が食べさせてあげようかなって、美味しい?」


「塞がっているのは久遠さんが……にゃむっ!」

「怒っていても口は開けるんだな。可愛い」



 確かに怒っているのに、目の前にアイスがくると意志とは裏腹に口が開いてしまうらしい。小鳥への給餌に少し似ている。

 でも、鈴さんも恥ずかしいけど嫌ではないのかな? 絶対嫌だったら口なんて開けないはずッスよね。



んんん(久遠)んん(さん)!!」

「ほら、大きく口を開けないから端についちゃったじゃないか」


「ふぁ!?」

「ん、やっぱり甘いね」



(うわぁぁぁぁぁぁ!!! すごいものを見てしまったッス!!)



 床をバタバタ地団太は踏めない為、浮かせたままジタバタと見悶えた。もうずっと尻尾を握り締めていたから痛いくらいだけど、見るのをやめられない。


 口から少しはみ出たアイスを顎クイからの親指で拭って、それをペロリと舐めるなんて……あまりに自然で素早かったから、鈴さんもなにが起こったのかとまだ呆然としている。

 さらに気づけば握っていた片方の手を恋人繋ぎのようにして、何事もなかったかのように「どうかした?」と首を傾げている。



 狼がキタぞーーー!! 普段どれほど落ち着いているお方だと言っても、やっぱり久遠副隊長は狼族。ゆっくりと、だけど確実に、捕える時は素早く……これが狼族の狩り方か。


 狼族は、気に入らない者は自分の領域になんて絶対に入れない。でも、逆に気に入った者は大事に大事に囲い込む。

 

 でも、鈴さんは家族愛の塊のような鷲族一家だし、その辺の理解はあるのかもしれないッスね。



「もう食べません!」と怒る彼女に、「それなら、俺が食べるからちょうだい」と言って、結局また「あ~ん」を叶えた副隊長……


 作戦を決めるのが主に副隊長なのがよくわかりました。二手、三手先まで読むことが大事なんスね。



 お二人を密かにお見送りすると、無糖で注文したはずなのに甘ったるいコーヒーは、すでに空になっていた。ちなみに三杯目である。


 今更ながら空きっ腹にコーヒーしか飲んでいなかったことに気付き、店員さんに「この店の一番辛いものとしょっぱいものを下さい」と注文を入れた。



 口の中が甘くて甘くて、今なら本当に砂糖を吐けそうな気がする。

 

 


 久遠副隊長は全く恋愛に疎くはなかった。


 先日はもしかして結構不器用でポンコツなのかと疑ったけど、爪を隠していただけだったんスね。


 これからもしっかり学ばせて頂くッス!






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