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初逮捕

 私たちに襲いかかっているマネキンは、2体ともナイフを手に持っている。切りつけられれば大けがではすまない可能性もあった。

 だから、まずは攻撃をよけながら動きのパターンを読むことから始める。


「何だろう。痴漢されていたときの感覚と比べると、動きが単純なような……」


「2体も動かしているからだろう。純粋に動かす数が増えれば増えるほど、単純な動かし方しか出来なくなる。現におもちゃ屋の前で襲われたとき、人形は飛びかかることしかしなかったからな」


 そうであれば、倒すのは簡単。動きを見切って、一撃を与える。狙うは腰!

 狙いは当たり、マネキンは腰から真っ二つとなり動きを停止した。


 雨月の方も同様で、こっちは四肢にレーザーを打ち込まれてダルマ状態になっていた。


「邪魔者は消えた。後は……」


「犯人の逮捕だ!」


 雨月が犯人を取り押さえようとしたその時、私は気付いた。犯人の後ろにうごめいている存在を。


「雨月、止まって!」


 私は雨月の前に割って入り、筋力強化した足で回し蹴りを放った。

 ドサッという音が響くと、目の前には胴体を破壊されたマネキンが倒れていた。ナイフを手に持って……。

 そう。あの女、自分の後ろにナイフを持ったマネキンを隠していたのだ。


「悪い、石田。ほら、おとなしくしろ!」


「放せ! あたしが何をしたって言うんだ! 女が女を好きになっただけで捕まえるのか!!」


「その気持ちは痛いほどわかるぜ。でもな、痴漢はダメだろ。そういうのは自分で彼女を作って、同意の上でやれよ」


 その後、痴漢の女を駅構内にあるバウンティハンター事務所に引き渡し、私たちの初仕事は終了した。




 翌日、金章学園に戻った僕達はというと……。


「あ~、全然書類が進まない……」


「ダメだ。規則で報告書を作らないと無かったことになるし、裁判も進まないんだからな」


 痴漢事件の報告書を作成していた。

 バウンティハンターは、犯罪者を逮捕したり事件を解決したりした際に迅速な報告書の提出を要求される。これがないと報酬や経費が支払われないし、いつまで経っても裁判が始まらない。

 なぜこんな制度があるのかというと、バウンティハンターは他人の人生を大きく変えてしまう影響力を有しているからだ。

 無関係な人の人生に傷を付けないように誤認逮捕や違法捜査を防ぐため、このような報告書の作成と提出を義務づけているのだ。


 なお、報告書に疑義があったり違法捜査の可能性が少しでもあると裁判で論点となり、調査を命じられる場合がある。

 調査の結果、違法捜査や証拠不十分などが認められると判決に影響が出て、無罪判決が出るケースもある。

 そうなった場合、支払われた報酬や経費の返還を要求されてしまう。もし支払わなければ、その後のバウンティハンター活動による報酬から天引きされるほか、最悪財産を差し押さえされる。

 なお当然のことだが、報告書に虚偽の事実を書くのは論外である。


「そういえば、こういう報告書って専門の人に代筆を頼めるんじゃなかったっけ?」


 実は、バウンティハンター専門の秘書が存在している。この秘書になるためには『バウンティハンター専門秘書』という国家資格を持つ人だけがなれる。要は『政策担当秘書』のバウンティハンター版だ。

 この人達はバウンティハンター関連の制度や書類に精通しており、必要な書類や資料の作成、手続きなどの作業をスムーズに行えるスキルを持っている。

 当然、報告書の作成も可能で、バウンティハンターの証言や目撃者の証言、監視カメラの映像などからわかりやすい報告書を作ってくれる。

 なお、仕事を行う上で特技は必要ないので、特技の有無は全く関係が無いバウンティハンター業界の職業でもある。


「まぁ可能だが、今回の報酬の半分は持って行かれるぞ? 専属の秘書を雇うバウンティハンターもいるが、そういうのは莫大な収入がある一流バウンティハンターだけだ。俺達みたいな仮免の学生、しかも報告書を作るのが簡単な事件くらい、自分たちで作らないとな」


「うへぇ……」


「ま、バウンティハンター協会の報告書フォーマットでA4用紙1枚くらいですむ位だからな。俺も手伝ってやるから、すぐ終わるよ」


 その後も報告書を書き続けたが、ふとある事が気になった。


「そういえばさ――」


 言葉を言いかけたところで、すぐ引っ込めた。あんまり詮索しちゃいけなさそうな話題だから。

 代わりに、こんな質問を出した。


「雨月って、書類仕事が得意なんだね」


「両親がバウンティハンターだからな。親戚もみんなバウンティハンター関連の職業に就いているし、同年代のヤツはバウンティハンター業界を目指してる。こういう書類も小さい頃から触らせてさ、俺が小学校入ったくらいから手伝わせてたんだよ。だから、下手な秘書官よりかは詳しいと思うぜ」


 ――本当は、あの痴漢を取り押さえたときの台詞が気になっていた。


『その気持ちは痛いほどわかるぜ』


 痴漢が『女が女を好きになっただけで捕まえるのか!!』と言った後に返した言葉だ。

 僕にはどうも、非常に実感のある、説得力がある言葉に聞こえた。


 でも、やっぱり聞けない。雨月の事を傷つけてしまうかもしれないし、僕の方も覚悟と勇気を持たないといけないから。



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