表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう未来なんて売らない  作者: バーニー
9/112

その④

 だけど、「運命」とはうまくいかないものらしい。


 高校の時から、数多の小説賞に応募し続けた。だけど、良いところまで行って、結局は落選する。そして、本来ならば僕が小説家になるきっかけとなった今回の小説賞でも、きっと落選した。未来は潰えた。さて、これからどうするものか。


        ※


 アパートに戻り、ポケットから取り出した鍵をドアノブに差し込んでいると、隣の部屋の扉が開いて、茜さんがひょこっと顔を出した。今さっきまで昼寝をしていたのか、目が充血し、頬に布団の痕が残っている。


「おかえり、ヒイラギ」

「…こんにちは、茜さん」


 茜さんは扉を半分開けた状態で、半身をこちらに突き出して、この前貸した新作小説の原稿を僕に寄越した。


「これ、返すよ」

「…いや、茜さんにあげます」

「…いいのかい?」

「要らなかったら捨ててください」

「こんな傑作、捨てるなんてもったいね。キミが賞を取ったら、『生原稿です!』って言って、オークションに出すことにするよ」

「うん、売るな」


 茜さんは一度引っ込むと、また顔を出して、手には原稿の代わりに缶ビールを持っていた。


「今晩、呑もうじゃないか。キミの最終選考に残ったお祝いだ」

「よしてくださいよ」


 僕はドアノブに差した鍵を捻って笑った。


「物欲センサーってやつです。期待したらダメです」


 いや、僕の場合、「期待しなくてもダメ」だった。僕が、「受賞する未来」を売ってしまったばかりに、「落選する未来」は、確定しているのだ。


 茜さんは少し目をきょとんとさせて、また微笑んだ。


「そうかい。じゃあ、『寂しい女を慰める会』で呑もうじゃないか」

「…そうですね」


 僕は力なく笑った。

 ドアノブを捻って開けた瞬間、ポケットの中のスマホが震えた。

 俊敏な動きでスマホを取り出す。


 茜さんが「おっと! 編集部からの電話かな?」という。


 液晶を見て、僕は首を横に振った。


「母さんからです」

「なんだ」


 茜さんは自分のことのように、残念そうな顔になった。

 僕は「そう簡単にいきませんよ」と笑いながら、スマホをポケットに入れた。


「あれ? 出ないの?」


「はい」苦笑する。「どうせ、金の相談ですよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ