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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
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その⑦

「はい、彼がランニングシューズを買おうとしていて」

「おい」

 店員さんは大げさな口調で「すごいですねえ! 是非、足に合うシューズを選びましょうねぇ」と言った。そして、林道美桜が持っているシューズを見て、にこっと笑った瞼の奥の眼球を狡猾に光らせた。

「ああ、それ、良いでしょう? 最新モデルなんですよ! 履き心地も良くて、クッション性も高いのでおすすめなんです」

「そうですよね。これ、私も好きな奴なんですよ。アッパーの柔らかさがちょうど良いって言うか…、あと、ドロップが厚すぎず薄すぎないから、蹴りだす時が気持ちよくて…」

「ですよねえ! 私も一時期履いていたんですよ!」

「ああでも、彼、あんまりスポーツしない人だから…、『高い』って言うんです」

「ああ~。確かにそうですよね! 一万円って、普段履きにはちょっともったいなく感じますよね!」

 そりゃそうだろ。

 店員さんは笑みを絶やさず、手をぽむっと叩いた。

「ああ、そうだ! ワゴンセールのところに、確か去年のモデルを置いていたんですよ! あれなら五千円ですよ? 性能もデザインもほとんど変わりませんし、持ってきましょうか?」

「あ! そうなんですか? よろしくお願いします」

「はい! 少々お待ちください。あ、彼氏さんのサイズは…」

「サイズは?」

「…二十五…」

「探してきますね!」

 日頃、スポーツをしているのか、走っていく店員さんの足は軽やかだった。

 店員さんがいなくなったタイミングで、僕は林道美桜の頭を小突いた。

「…買わないぞ?」

「じゃあ、買ってあげるよ」

 林道美桜はそう言って、ショルダーバックから長財布を取り出す。中身を見て仰天、福沢諭吉が十人程いた。僕がドン引きして後退ると、林道美桜は呆れたように笑った。

「そりゃあ、売れっ子の小説家ですから」

 それに。と言って付け加える。

「ヒイラギには、感謝しないとね。いっつも、私のサポートしてくれるから」

 靴を持った店員さんが、走ってこちらに戻ってくるのがわかった。

 僕はため息をついて、ぼそっと言った。

「…嫉妬しているだけさ」


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