その④
パチッと目が覚めた。身体を起こす。眠気も、身体のだるさもきれいさっぱりに消えている。
指をグーパーして指先に血液を巡らせていると、ふと、壁に掛けられた時計が視界の隅に入った。午後八時。だった。
「うん? え、うそ…」
林道美桜の帰宅予定時間から、二時間も過ぎているじゃないか。
「え、林道? え、ええ?」
違うんだ。キミのソファを占領していたのは、ちょっとした休憩のつもりで…。と、言い訳をしようと息を吸い込む直前…、玄関の扉が開く音がした。
遅れて、林道美桜の上機嫌な声が響く。
「たっだいまー!」
「……」
とてとてと、林道美桜がリビングに入ってきた。
「ただいま!」
「うん、おかえり」
なんだ、まだ帰っていなかったのか。
「どうだった?」
「うん、結構いい話し合いができたよ」
林道美桜はにかっと笑うと、僕に向かってピースした。
「プロットの内容も褒めてもらえたし…、作品の方向性も、ヒイラギくんと話し合った内容で大体通った。もう本文書き始めても良いってさ。インタビューも、上手くいった。思ったより大したことなかったね」
「そうか…」
上機嫌な林道美桜は、手に下げていたナイロン袋を僕に渡した。
「はい、お土産。お腹空いているでしょ?」
「お、ありがとう」
コンビニで弁当でも買ってきてくれたのかな? と、中を覗き込む。
入っていたのは、バスケットに入ったフライドチキンだった。
「……なにこれ。クリスマスにはまだ早いぞ?」
僕が目をぱちくりとさせていると、彼女は胸をツンと張って、意気揚々と言った。
「神宮寺さんが奢ってくれたのよ! デビュー作が二十万部突破したお祝いに! 近くの高級レストランでね!」




