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その③
結局、僕は「小説」を選んだ。まだ、未来の自分のビジョンが想像できたからだ。
周りは「ああ、コイツはダメだ」って顔をして僕を見た。
僕が高校文化祭の散文部門で、優秀賞を獲得し、表彰で壇上に上がっても、誰も賞賛の拍手をしなかった。「小説家なんてくばかげた夢を抱いているもんだ」って、嘲笑が聞こえるようだった。
それでも、書くのは辞められなかった。
書けば書くほど、何故か夢から遠ざかる。
夢に近づいたと思っても、またすぐに突き落される。
コンクリートに心を押し付けて、擦っているようだった。もう、跡形も無いくらいに擦り切れちゃったんだ。
未来はもう、「現在」に変わった。
もう、叶うことは無いのに、僕は何処か期待している。




