その②
高校に入学した瞬間、僕は文芸部に入部した。
部員は僕の他に八名。三人が半年も経たない内に消え…、二人が卒業と共に消えた。僕が三年生になるまでに、四人増えたが、みんないつの間にか消えていた。
最後まで残ると思われた三人も、三年生最後の高校文化祭に作品を提出することなく、受験勉強のために退部した。
僕は、四階の隅にある物置部屋を改造した部室で、毎日、毎日、埃臭さに顔を顰めながら小説を書いた。周りが受験で切羽詰まっていても、先生に「進路希望を教えろ」と言われても、小説を書いた。ペンを握り続けた。
他に、何も無かったんだ。小説にしか興味が無かった。「遊び」や、何となく大学にいく同級生がいるなか、「小説家」という一本の図太い軸を持った夢を見ている僕は立派だったと思う。それなのに、僕に羨望のまなざしが向けられることは無かった。
今でも思い出す。
進路希望調査を適当に提出した僕を呼び出した担任の先生が、苛立った口調で、「お前、もっと現実を見ろや」と言う。バシッ! と、傍にあった机を叩く。
僕は新作の構想を頭の中で考えながら答える。
「将来の夢は、小説家です」
「馬鹿言えよ、なれるわけないだろう?」
文章を書くことが好きな僕のために、先生は文系の大学の資料を何十冊も取り寄せていた。それを、僕の胸に押し付けた。
「国語が好きなら、それなりの大学に行け。小説は趣味で書け」
僕の通っていた高校は、自称進学校だから、浪人生を出すわけにはいかなかったのだろう。先生が執拗に大学に行かせたい気持ちもわかる。
だけど…、あんまりじゃないか。
だって、興味が無いのだ。僕は「大学生になりたい」のじゃない。「小説家になりたい」んだ。それともなんだ? 大学に通っていれば、他になりたい自分を見つけられるとでも? そんなギャンブルみたいなことできるかよ。
息苦しかった。金はたくさんある。だけど、苦しくてたまらなかった。
もう叶うことが無い「小説家」に向かって進むのも、興味のない大学に進学するのも、どちらに進んでも、熱風吹き荒れる地獄だった。
母さんは僕のことに興味がない。だだっ広い家でひたすらに惰眠を貪るだけ。
母さんの姿を見ていると、なんで夢を売っちゃったんだろう? なんでこの金に使い道が無いんだろう? と、答えのない疑問が頭の中に浮かび、ひたすらに悶々とした。
結局、僕は「小説」を選んだ。まだ、未来の自分のビジョンが想像できたからだ。
周りは「ああ、コイツはダメだ」って顔をして僕を見た。




