その②
僕はカップから漂う湯気を眺めながら、僕はゆっくりを話した。
「ずっと、考えていたんだ。『他人の未来』を買うことについて。やっぱり、美味い話なんて無いんだな。未来を売った僕が、金を得る代わりに、何もかも上手くいかなくなったように…、未来を買った林道にもデメリットがあるんだな」
林道美桜が買ったのは、「小説家として大成する未来」だ。
小説家に限らず、夢を叶えるためには、必ず過程が必要になる。「努力」や、「練習」という過程だ。彼女が買った未来には、その過程が含まれていなかった。そのため、彼女の実力に不釣り合いなことが起きているのだ。
「本来なら…、『自業自得だよ』って切り捨てたかったけど…、そうもいかなくてな」
これがただの「自己満足」であるということを彼女に悟られないようにしながら言った。
「もう林道の所有物だけど…、うん、だから…、その…」
「協力してくれるんでしょ?」
彼女は、おぼつかない僕の言葉を遮ってそう言った。
「何回も言い訳がましく言わなくたって大丈夫だよ。協力してくれるんでしょ? 知っているよ。前のイベントで言われているんだから」
「あ、まあ、そうだな」
くどかっただろうか?
急に恥ずかしくなり、僕は後頭部をポリポリと掻いた。
羞恥心を紛らわせるように、唐突に本題に入る。
「ま、まあ、その…、林道が上手く小説家として生きていくために…、僕がアドバイスすれば良い話なわけだな。インタビューの時とか…、あと神宮寺さんとの打ち合わせの時とかで」
「うん」
「え、ええと…、次はなんだっけ?」
「雑誌のインタビューだよ。水面下で、一応、実写映画の話が進んでいるから…、多分、そっち系のことが聞かれるのかも」
「…わかった。また聞かれそうなこと、答えることを考えておくよ」
「うん、よろしくね」
「とは言うけどな」少しずつ、口が流暢になっていくのを感じた。「全部僕任せなのもダメだな。林道、お前、自分の書いた小説を読んだことは?」
「無いよ」あっさりとそう言った。「いや、まあ、執筆中はパソコンの画面を見ているんだから、ある程度内容は把握しているけど…、流れ作業みたいな感覚だから、『この部分にこんな気持ちを込めた』とか、『ここの文章はこだわった』とか、わからないのよねえ」
「前にも言ったけど、読んだ方がいい。ほら、授業の前に予習するだろう?」
「私、運動の方が好きだったから、したことないなあ」
「……しろよ。とにかく、僕の説明を間に受けて、そのまま答えるよりも、自分でも話の内容の理解はやっておけよな」
「はーい」
林道美桜は軽い声で頷いた。




