表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう未来なんて売らない  作者: バーニー
45/112

その⑪

 ほんと、何やっているんだろうな。


 次のシャトルバスがやってくるまで四十分だった。待つ気にはなれず、歩いて帰ることにした。大体、五キロくらいだろうか? 無理な距離じゃない。疲れたらタクシーを拾えばいい。僕は未来を売ったからお金持ちなんだ。まあ、ほとんど残っていないけど。


「畜生め…」


 不意に出た言葉を舌先で溶かしながら、日が傾いて薄暗くなりつつあるビル街を歩く。

 ぼーっとしていたせいで、前からやってきた男に気づかず、肩がぶつかった。


「あ、すみません」


 咄嗟に謝ったのに、男は舌打ちをして、咥えていた煙草を僕に向かって吐いた。

 火のついた煙草は、僕のシャツの胸に当たってから地面に落ち、赤い火の粉をふわっと舞わせた。僕がふたたび顔を上げた時、男はもう既に、雑踏に消えていた。


「……」


 あの男の、「未来」の価値はどのくらいだろうか?こういうマナーに欠けたことができるんだから、きっとろくな人生を送らないだろう。だけど…、喧嘩は強そうだ。強引に女に詰め寄れそうで、経験人数も多そうだ。暴力と暴言で人を支配していそう。となると、案外価値は高くなるのかな? 「支配欲求のある人間」に需要がありそうだ。


 そこまで考えて、ははっと苦笑した。


 人の「未来」の価値を査定するなんて、最低だな。最低な未来しか持っていないくせして。


「あー、やだやだ」


 そう言うと、通りすがった女子高生がぎょっとし、狂人でも見るかのような顔をして、通りに消えていった。


 あの女子高生の「未来」の価値は、どのくらいだろうか? 顔は良かったから、大学に進学して、それなりに勉強して、サークルだのコンパだのに参加していれば、金持ちの男は捕まえられそうだ。就職して、すぐに出世街道を駆け上がっていきそうだな。まあ、外見だけの判断に説得力なんてものは皆無。これはただの偏見だな。


 馬鹿みたいだな…。まるで、ショウウインドウのおもちゃを眺める餓鬼みたいだ。

 僕はまた「ははっ…」と苦笑した。


 ビル街には陽光が当たらず、肌寒くなってきたので、近くのコンビニで肉まんを買って食べた。甘辛いタケノコを奥歯で噛み潰しながら、白い息を吐く。


 僕の未来とは言え、もう他人の未来。


 そうだ…、今日僕が行ったことは、ただの自己満足だった。誠実さなんてものは存在しない。

 確かに、心は満たされたよ。「僕の未来の尊厳を守ってやった」って気持ちを得ることはできた。だけど、あの未来売買人の女が言っていた通り、「惨めな人生」であることに変わりはなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ