表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう未来なんて売らない  作者: バーニー
44/112

その⑩

 そりゃそうか。小説家だもんな。担当編集くらいつくか。


 僕が名刺をまじまじと見ていると、神宮寺さんが林道美桜に言った。


「林道さん。今日はお疲れ様。本もたくさん売れたし、良かったね」


「はい。ありがとうございます」林道美桜の作り笑い。「すっごく緊張しましたけど、すっごく楽しかったです」


「うん。これから先、インタビューとか、サイン会とか、公の場所に出ないといけないことがあるから、少しずつ慣れていこうね。そこまで気負う必要は無いよ。本業は小説家なんだから」


「はい、よろしくお願いします」


「そうだ、イベントの成功祝いに、食事でも行かないかな? いいレストラン知っているんだよ。ついでに、軽く新作の打ち合わせもしたいし」


「え、いいんですか?」


「うん、僕の奢りだから」


「やった! 行きます!」


 林道美桜が僕の方を振り返っていった。


「じゃあ、ヒイラギくん、私はこれで」

「ああ、また今度」


 僕は喉に小骨が引っかかったような感覚のまま、彼女に手を振り返した。


 林道美桜は、神宮寺さんに連れられて、ショッピングモールの出口の方へと歩いていった。

 彼女が杖を突く、カツン…カツン…カツン…という音が遠ざかっていく。


 二人が見えなくなると、たちまち、僕の周りを行き交う雑踏の音が耳に飛び込んできた。

 僕はコーヒーを飲み干すと、自販機の横にあったゴミ箱に放り込む。そして、ぐっと伸びをする。薄い肉の奥で、背骨がボキボキと鳴った。


 作家である林道美桜と、その担当編集である神宮寺さん。二人の会話が、鼓膜にへばりついて、ずっと反響していた。


 本来ならば、あのイベントの壇上には僕が立っていて、ファンたちの質問には僕が答えるはずだった。本来ならば、「○○さんへ 柊木誠」ってサインを書くのは、僕のはずだった。担当編集と一緒に、豪華が食事をして、次回作について話し合うのは僕だった。


 すべて…、林道美桜のもの。


「………」


 ほんと、何やっているんだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ