表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう未来なんて売らない  作者: バーニー
43/112

その⑨


 僕はあらかじめ買っておいた、彼女の分のミネラルウォーターを渡す。



「まあ、上手くいって良かったよ」

「うん、本当にありがとう」

「…どうせ、まだイベントがあるんだろう? 次はいつだ?」

「ええと…、次は一週間後だね。文芸雑誌のインタビューが入ってる」

「わかった。また答える内容は考えておくから…、林道も、もう少し小説を読んで知識を深めておけよ。僕の力だけじゃ、お前を『小説家らしくする』のには無理がある」

「え…」


 林道美桜の目が丸くなる。


「なんだ? 不満なのか?」

「いや、これからも協力してくれるの?」

「そうしないとダメだろう」


 僕はめんどくさそうに頷いた。


 そうやって息を吸い込んだ瞬間、誰かが林道美桜の名前を呼んだ。


「林道さん!」


 振り返ると、男が、爽やかな笑みを浮かべて林道美桜の方に手を振っていた。


 男は小走りにこちらにやってきて、林道美桜の前で止まった。


「ここにいたんだね。林道さんは足が悪いんだから、無理をしちゃダメだよ」


 見た目は二十代後半から、三十代前半。髪を焦げ茶色に染めて、柔らかに流している。深みのある藍色のジャケットを身に纏い、鎖骨の浮き出た首もとで、高そうなネックレスが光っていた。なんかこう、林道美桜と同じで、「成功者」って感じの気配がした。


 林道美桜が「いやあ、全然大丈夫です!」と、声を一オクターブ高くして言う。


 爽やかイケメン男は、僕を見ると、おやっと言いたげな顔をした。


「キミは…、イベントがはじまる前に林道さんと出ていった」

「ああ、ヒイラギマコトです」

「あ、私の知り合いなので、悪い人じゃありませんよ」


 まだ知り合いにもなっていないのに、林道美桜は平然と、僕との関係を偽った。

 それで信じたのか、男はまた爽やかな笑みを浮かべ、ジャケットから取り出した名刺を僕に渡した。


「どうも、僕は『神宮寺直也』って言います。○○出版で、林道さんの担当編集をしているんですよ」

「担当編集…?」


 名刺を受け取る。確かにそこには、「○○出版 編集部員 神宮寺直也」とあった。

 この年で編集者か。いや、編集者の平均年齢はよく知らないんだけども。


「そうか…、担当編集か…」


 そりゃそうか。小説家だもんな。担当編集くらいつくか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ