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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
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その⑥

 間もなく、鈍行がゆっくりと動き始めた。


 流れていく景色を眺めながら、僕は判が押された切符を手の中で転がした。


 「良い母親」では無いが…「悪い母親」ではなかった。悪い母親ってのは、子供に暴力を振うものだから。僕の母さんにはそれが無かった。それでも十分幸せだったんだと思う。

 母さんをあんなふうにしたのは、僕の未来を売って得た金だ。


 何もしなくなった。病気を盾に働かなくなった。僕の金をあてにしてダラダラと過ごした。それだけやっても、金が尽きることは無い。それが本当に厄介だった。


 昔はもう少し、目の色も輝いていたんだけどな…、多少なりとも「愛」ってやつを受け取っていた。だけど…、この前の茜さんの言葉を引用して言うならば…、あの愛は全部、金の所有物となってしまった。


 ガタンゴトンと電車が揺れる。向かい側の席で、授業をバックレたであろう女子高生が楽し気に話している。若い女の顔が、先日の、林道美桜の姿を想起させた。


 僕が母さんを助けるために売り払った未来は…、あいつのものになった。


 小説に興味無いくせして、どうしてあんなことしたんだ? 単に、目立ちたかったから? 馬鹿な奴だ。未来を買う金があるんだったら、上流階級の人間しかできないようなレッスンにでもかよって、ちやほやされればいいんだ。顔はいいから、もっと金持ちな男がわんさか寄ってくるだろう。それなのに、「未来を買う」なんて、かりそめの栄光になんか頼りやがって。だからお前らはダメなんだよ。


十分ほど走った電車は、ある駅に停車した。僕は重い腰を上げて降りた。


 シャトルバスに乗り込み、少し遠くにあるショッピングモールに向かう。


 ショッピングモールの前にバスが停車すると、運賃を支払ってバスを降りた。 


 中に入り、数多の店が軒を連ねる通りを歩くと、平日のわりに多くの人間とすれ違った。イベント情報が記載された掲示板に目を通してから、エスカレーターを使って二階に上がり、イベントが行われる広いスペースがある方へと足を向ける。


 そこに近づけば近づくほど、人が増えていった。皆一様に、林道美桜の著書を脇に抱えていた。


行列の間をすり抜けて出ると、広いスペースに特設会場が用意されていて、看板には「林道美桜サイン会&インタビューイベント」とあった。ダメだとはわかっていながら、看板の裏をひょいっと覗き込む。そこには、このイベントの司会者や、ショッピングモールのオーナーらしき人、あと、担当編集っぽい男、そして、林道美桜もいた。


 林道美桜が僕の存在に気づく。思わず「あ!」と声をあげた。


 僕の存在に気づいた司会者が、「ごめんなさい、もう少し待ってもらっていていいですか?」と言って、僕を追い出そうとする。それを、林道美桜が辞めさせた。


「ごめんなさい、彼、私の知り合いだから!」


 彼女はそう言うと、傍に置いてあった杖を掴むと、パイプ椅子から立ち上がった。

 僕は林道美桜を睨むと、顎で非常階段の方を指した。



「少し、話をしよう」


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