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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
39/112

その⑤

「……」


 昔は、母さんのことが大好きだった。


 母さんのことが、「神様」のようなものに見えていた。だけど、それはただ、幼い僕の世界が狭かったから。母さんの存在しか知らなかったから。


 避妊せずに性行為して、妊娠して、中絶して、凝りもせずに性行為して妊娠して、父親に逃げられ、狭いアパートの部屋で、赤子にまともな食事を与えなかった「母親」など、世間一般の目で見れば、「神様」ではなく、「悪魔」だった。


 昔大好きだった漫画のお話で、こんな展開がある。敵は自分たちのボスを心酔していて、ボスのために命を賭して主人公チームと戦う。そして、最終的に、ボスの極悪非道の素顔を目の当たりにした時、「そんな…、僕たちのボスが、こんなやつだったなんて!」と絶望し、主人公に討たれるのだ。その絶望した敵の気分だった。


 神様だと思っていた人は、悪魔だった。僕の「未来」を売り払ってまで、助けた人なのに…。

 どうして、僕の大好きなものばかり、僕を失望させるのだろう?


 とぼとぼと歩いていると、駅に着いた。


 スーツを着た男とすれ違い、券売機の前に立つ。小銭を数えるのが面倒で、千円札を投入口に押し込んだ。綺麗なお姉さんの声で、「切符を選択してください」と言われる。簡単なことだ。一番乗り場に停車している電車の切符を買い…、アパートに戻るだけ。


 さて…、帰ったら何をしよう? とりあえず、溜まりに溜まった小説を読もうかな? そうやって、成功した作家さんと、何も成しえなかった僕との差に打ちひしがれるんだ。

 自分に言い聞かせるようにそう思い込み…、タッチパネルに指を伸ばす。


 押したのは、二番乗り場の電車…、僕のアパートとは逆方向行きのやつだった。


 綺麗な女性の声で「ありがとうございます」と言って、切符が出てくる。お釣りがジャラジャラッ! と出てくる。


 僕は三秒固まった後、出てきた切符を手に取った。


 すみません…、切符回間違えたので、返金してくれませんか? っていう言葉が出てこなかった。「勇気が無い」とは、口実だった。


 駅員さんに切符を渡し、二番乗り場に停車している電車に乗り込む。


 間もなく、鈍行がゆっくりと動き始めた。


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