その④
「楽しみの無い日々も、つまらないわね」
「体調を管理すればもっと楽しめるはずだよ」
母さんとの会話に辟易した僕は、「それじゃあ」と強引に話を終わらせると、玄関に向かって歩いていこうとした。それを母さんが呼び止める。
「待って…」
「…なんだよ」
「これから、何処かに行くの?」
「え……」
ギクリとした。
「なんで…、わかるの?」
「ほら、だって、まことの服がいつもと違うから」
母さんは、僕のジーパンと、ブランドのシャツ、ジャケットを指してにこっと笑った。
確かに、母さんの世話をしに行くときはいつも、動きやすいジャージやTシャツで行っていたから、僕がこんな格好をするのは物珍しいのか…。
こういうところを指摘するあたり…、やっぱり母親か…。
「誰のところに行くの?」
「別に…、どうでもいいよ」
「やだな、彼女?」
「そんなんじゃないよ」
「じゃあ、教えてよ」
「おしゃれだよ。最近目覚めたんだ。もういいだろう?」
僕は母さんの視線を、声を振り払うと、逃げるように歩いていって、玄関で靴を引っかけて外に出た。振り返り、全体的に黒っぽくくすんだ家を見た僕は、舌打ちをし、魂が抜けるようなため息をついてから歩き始めた。
「……」
昔は、母さんのことが大好きだった。




