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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
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第四章『ないものねだり』

どうせ手に入らないのに


僕たちが銀翼に憧れる


どうせ手に入らないのに


僕たちは醜い鉄塊を背負っている

「ただいま」


 実家に帰るのは一か月ぶりだった。

 玄関の扉をガラガラッ! と開けて、部屋の奥に叫ぶ。


「帰ったよ!」


 昔ながらの、瓦造りの家。扉を開けたところには、膝くらいの高さの上り框があり、くすんだ絨毯が敷かれている。靴箱の上に置いてある造花も、土壁に張り付いた津和野和紙人形も、出ていった時のままだった。


 唯一変わったのは、匂いか。昔は、まだ祖父祖母が焚いていた線香の香りが充満していた。白樺のやつだ。今は、黴っぽい淀んだ空気が漂っている。


「ただいま…」


 靴を脱いで上がると、埃っぽい廊下を歩いて居間に入った。


 母さんは、窓側に布団を敷いて、その上にパジャマ姿のまま、スヤスヤと眠っていた。

 枕元に、麦茶の入ったボトル。コンビニのおにぎりのフィルム。飲んだ後のウイダーゼリーのゴミが置いてあった。ったく、食べたら捨てろよ。と思ったが、部屋の角に置いてあるゴミ箱は、既に大量のゴミで一杯になっていた。ったく、一杯になったら捨てろよ。


 この一か月でまた老けた気がする。昔はもう少しつやっとしていた髪には白髪が混じり、目の下の隈はくっきりとしている。これでまだ三十七歳なのだからびっくりだ。世間一般の母親なら、「若さ」ってやつに未練を持つようになって、ちょっとお高めな化粧品に手を出し始めるころだぞ? ロマンティックでドロッとした火遊びにだって手を出すやつだっているんだ。


 何とも覇気の無い姿だった。


「母さん…、母さん…。おい、起きろよ…、息子が帰ってきたんだぞ」


 ろくに栄養のあるものを食べていないのだろう。母さんの肩を掴んだ時、出っ張った骨の感触が手の中に残った。


 その生々しさに、背筋に冷たいものを感じていると、母さんが薄目を開けた。


「あ…、ああ、マコト…、おかえり…」

「ただいま…」


 母さんはゆっくりと起き上がると、ぼさぼさになった髪をかき上げた。頬の青白さが一層際立つ。空気が、ふわっ…と揺れて、汗臭さが強くなった。


「ありがとうね…、来てくれたんだ」


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