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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
32/112

その⑫

 林道美桜の部屋を出て、エレベーターの前に立った。


 背後で、「待って!」と言う声が聞こえた。


 林道美桜は相変わらず泣きそうな顔で、右手に持った杖をせわしなく突きながら僕を追ってきた。カツン、カツン、カツンと、無機質な音がマンションの通路に響き渡る。


 慌てて歩を進めたために、林道美桜はバランスを崩し、お腹を打ち付けるような形で転んだ。十メートル離れていたが、ドスン! という痛々しい音が聴こえた。


 丁度そのタイミングで、エレベーターが到着する。


 僕は何も言わず、エレベーターに乗り込んだ。そして、一階のボタンを押した。


 マンションを出ると、駅とは反対方向に進み、彼女が通っているという市立大学の門の前まで立ち寄ってみた。定礎の横に掲示板があって、そこには、「祝! 小説家デビュー! 林道美桜さん!」と書かれたポスターが貼ってあった。


 ふと顔を上げると、大学の校舎からも垂れ幕が掛かり、「祝! 小説家デビュー! 林道美桜」という文字が大々的に街の者にアピールされている。


 駅に向かう途中に立ち寄った書店には、林道美桜の著書が山積みにされていた。そして、店員が書いただろうフォントに、「地元出身作家! 林道美桜さん!」とある。それを僕がぼーっと眺めている間にも、二人の学生が単行本を手に取り、レジへと向かっていた。


 僕も買おうかと、ポケットから財布を取り出す。だけど、すぐに戻した。くるっと踵を返し、店を出ていく。何も買わなかった客に、店員さんは何も言わなかった。 



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