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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
30/112

その⑩

「断る」

「へ?」


 林道美桜の間抜けな顔。写真を撮りたかった。


「え、ちょっと…、なんで?」

「ざまあ無いな。天罰だよ」


 そう言い切ると、ソファから立ち上がる。


 なんだ…、もう少し面白い話が聞けるのかと期待していた自分が馬鹿だった。


 ジャージのポケットにスマホと財布が入っているのを確かめると、くるっと背を向け、玄関の方へと歩いていく。すかさず、林道美桜が腕を掴んで引き留めた。


「ちょっと! 話を聞いてよ!」

「いや、聞いただろ。小説は書けるけど、小説に興味がないお前のために…、僕がインタビューの原稿を考えたり、新作の構想を練るのを手伝ったりするんだろう? 嫌だよ。そんな無益なこと」

「無益じゃ無いでしょうが! もとはヒイラギくんの未来なのに」

「今はお前の『未来』だ」


 いや、現在か。ややこしいな。


 僕は林道美桜の手を、苛立ちの籠った力で振り払った。


「もう一度言おう。天罰だ。努力せずに、『成功』だけの未来を買った天罰さ。そうやって金に頼ったり人に頼ったりする暇があったら、小説の一冊や二冊読んで、文学に対する知識を増やせばいいさ。なんなら協力しようか? 僕はお前と違って、努力した人間だからな。部屋に小説は腐るほどある。貸してやってもいい」

「それじゃあ、次の取材に間に合わないでしょうが!」

「だから、天罰だって言っただろ? 赤っ恥かいて、自分が『成功』に対して横着したことを悔いればいいさ」


 歩き出す。


「待って! お願い! 本当に待って!」


 後ろから聴こえる彼女の声は、今に泣きそうだった。


 彼女に対して何かされたわけじゃない。僕が成功者の未来を失ったのは、当時の自分が無知だったから。彼女が僕の未来を買ったのは、ただの偶然。僕が彼女に対して怒る筋合いはない。これは「八つ当たり」だった。


 僕が笑みを含んだ声で言った。


「まあ、頑張れよ。その未来はもう、お前のものさ。好きに使うと良い。僕は売って得た金で、悠々自適に楽しむとするよ。お前が恥かく姿を見ながらな!」


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