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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
29/112

その⑨


「ええと…、『作者インタビュー&サイン会』…? なんだよ。インタビューとどう関係があるんだよ?」

「あんた、印象通り、鈍いね」

「あ?」


 林道美桜が腕を組む。


「だからね…、私はただ『未来』を買っただけ…。わかる? なんの努力もせずに、手が勝手に動いて小説家になったの」

「うん」

「つまりね…、その…、うん…、だから…」


 突然歯切れが悪くなる林道美桜。心なしか、僕と目を逸らすようになり、白く透き通るような頬も赤く染まっていった。


 ああ、これは…、彼女にとって都合の悪い話だな。


 そう確信した僕は、徴発するように促した。


「どうしたんだよ。言えよ。僕にお願いを聞いてほしいんだろう?」

「だから! わかんないのよ! 自分で書いた小説の面白さが!」


 上擦った声に乗せて、想像通りの答えが返ってきた。


 最初に出会った時とは比べものにならないくらい顔を真っ赤にして、彼女は僕に訴えた。


「わかる? 確かに…、私は小説を書いて…、それが入賞してデビューしたけどさ! 私…、小説に興味が無いの! だから…、自分の書いた小説が、どうして編集部に評価されて…、どうして売れるのかわからないの! これ、結構地獄なのよ! 『この作品の魅力はなんですか?』とか、『これを書くにあたって工夫したことは?』って…、答えられるかっての! だって、私が考えた小説じゃないもん! ヒイラギくんの未来を買って書いた小説なんだから!」


 林道美桜は泣きそうな顔をして僕に詰め寄った。


「今度、ショッピングモールで、販売促進のためのインタビューとサイン会があるの…、下手なこと言えないのよ。だからさ…、私に協力してよ!」

「…協力って…、何を?」

「本来ならば、ヒイラギくんがこの小説を書いて発表して…、それが入賞する運命だったのよ? もと所有者なんだから、この小説の何処が面白いとか…、どういったところを工夫したとかわかるでしょうが!」

「つまり…、僕にインタビュー用の原稿を作れってか?」

「それだけじゃない。この先、私はたくさんの小説を書くことになるわ。その度に、担当編集と向かい合って、新作はどういった方針にするだとか、煮詰めて話し合うのよ? この、小説に興味がない私が! 聞かれたって何も答えられない私が!」

「うん」

「ねえ、知っているでしょう? 助けてよ…。このままだったら私…、大勢の前で赤っ恥かくことになるの!」


 僕はこくっと頷いた。

 林道美桜の顔が少し明るくなる。

 僕は間髪入れずに言った。


「断る」


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