第三章【未来を買った女】 その①
他人に決められたんだって
不本意だわ
あの日から、僕は小説を書くことをきっぱりと辞めた。
残りわずかな金を切り崩し、細々と怠惰な暮らしを送っていると、見かねた茜さんが書店のバイトを紹介してくれた。そろそろ金が尽きるのは時間の問題だったため、僕は彼女の厚意に甘えることにした。
朝起きると、歯を磨いて顔を洗い、ウイダーゼリーで空腹をやわらげ、茜さんと一緒にバイトに向かう。適当に働いて、適当に時間を潰し、暗くなる前にはアパートに帰った。それからは、深夜になるまで、茜さんとダラダラと酒を呑んで時間を潰し、朝になるとまた動き始めた。
その日々は、案外悪くなかった。流れ作業が延々と続く工場の動画を見ていたらいつの間にか時間が経っているのと同じだ。「空虚」が故に、何も感じることが無かったのだ。
母さんは相変わらず、僕にメッセージを送り付け、「お金を貸してくれ」だの、「一緒に吞みましょう」って要求してきた。最初は無視していたが、余りにもしつこいので、何度か金や酒を持って実家に帰った。実家はゴミで荒れ果てていたが、母さんは、僕と久しぶりに会ったことで幸せそうな顔をしていた。おかげで親子の縁を切れなかった。僕の甘いところだ。
まあ、こんな人生でもいいか。
酒を呑み、アルコールを喉の奥で溶かしながらそう言い聞かせる。
人生ってのは、「金」とか「名声」なんかじゃないんだよ。どれだけつつましく生きられたか。だよ。「貧しさは美徳」ってやつだ。
こうやって、静かに、何も無い日々を送るのが、今の僕の性分に合っているんだよ。
そうやって、虚しさを紛らわせながら、僕は生きた。その日々は、半年続いた。




