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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
20/112

その⑮

「私たちは、『未来の売買人』…」


 風が吹き付けた。辺りの細かな砂を巻き上げ、僕の視界を奪う。

思わず顔を伏せた時、女の声が頭に響いた。


『もし未来を買いたくなったら…、はたまた、未来を売りたくなったら、いつでもお呼びください。貴方の空虚な日々が少しでも彩るように、努力いたしましょう』


 風が止んだ。


 顔を上げた時、女は消えていた。


 ため息をついてその場にしりもちを着いた瞬間、ポケットのスマホが鳴った。


 もう、未来は変わってしまった。


 それなのに、僕はまだ「期待」というやつを込めてスマホを取り出す。そして、液晶をみて落胆した。


 母さんからメッセージだ。「少しだけお金を貸してくれませんか?」って。


「ああ、もう…、くそが…」


 僕は泣きそうな声でそう絞り出した。


 酔いはすっかり覚めていて、済んだ空気が辺りに漂っている。


 この先、華やかな未来は一つも無い。あるのは空虚な日々。そういう仕組みなんだ。いくら頑張っても、大成することはないのだ。


 手に持ったスマホが震え、母さんから次々とメッセージが送られてきた。「次はいつ来てくれますか?」「また一緒にお酒を呑みましょう」「体調が悪いので、早めに来てくれると嬉しいです」「お金の管理はちゃんとしていますか?」「無駄遣いはダメですよ」


 黙れや。って、スマホに向かって叫んでいた。


 意味もない足掻きに、また虚しくなる。


 こんな屑な母親を、未来を売ってまで助けたことに、虚しくなる。


 空を見上げて、「あーあ…」って、魂の欠片が混じったため息をついた。


 ほんと、いやになっちゃうよ。


 僕はゆっくりと立ち上がると、吐しゃ物はそのままにし、自動販売機に残ったミネラルウォーターを持ってアパートに戻った。歩いている時、まさに「空虚」というやつを踏みしめているような気分だった。


 部屋に入ると、寝ている茜さんを揺り起こし、ミネラルウォーターを渡して部屋に帰した。

 自分のミネラルウォーターを飲み干し、空になったペットボトルをゴミ袋に放り投げた後、僕は机の上のノートパソコンを見てぼそりと言った。


「諦めるか…」





 小説家にはなれない。大成しないものを頑張っていたって、時間の無駄だった。


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