その②
小学生の時、僕は急病に犯された母親を助けたことがあった。
病名は今となっては覚えていない。って言うか、聞かされていない。でも、今すぐに手術して、高い薬を投与しないと、明日の朝日を拝めるかどうかわからない状況だった。そう、お医者さんが言っていたような気がする。
父親と離婚して、親には勘当されて、母さんには頼れる人間がいなかった。僕も学校では孤立して、近所の人間に邪険に扱われていたから、もう八方塞がりだった。
当時はまだ、母親に対して「屑親」という印象を抱いていなかった僕は、どうすればいいかわからず、母親が死ぬことへの恐怖から、ただ泣きじゃくっていた。わんわんと泣いていた。
そんな時、僕はあの女に出会った。
錯乱して病院を飛び出し、訳も分からなく走った僕は、気が付くと、僕は神社の裏手にある林道を歩いていた。
冷えた秋風がざわざわと木々を揺らしている。
振り返るとそこに、女が立っていて、僕に言うのだ。
「未来を売ってみませんか?」と。
黒いマント、華奢な身体。銀色の髪の毛に、透き通るような肌。
まるで絵本の中の魔女をそのまま切り取って、この世界に配置したかのような姿に、僕は全身が粟立つ感覚がした。そして、思わず尋ねた。
「ねえ、誰?」
僕の質問に、女は「おっと」と言って、口をしなやかな指で上品に押さえた。
「これは失礼…、私は『未来の売買人』です」
「みらいのばいばいにん?」
頭の中に「?」が数十個浮かんだ。
女は上品な笑みを浮かべながら続けた。
「お母さんが死にそうなんでしょう?」