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もう未来なんて売らない  作者: バーニー
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その⑩

「茜さん、大丈夫ですか?」

「うん、だいじょうぶ…」


 テーブルの上に突っ伏した茜さんは、全然大丈夫そうじゃない返事をした。顔を上げて、酒臭い息を吐く。次の瞬間には、「うっ!」と呻いて口を抑えた。


 吐くかと思い、身構えたが、すぐに顔をテーブルに押し付け、すうすうと寝息を立て始める。


「寝るなら、自分の部屋に帰ってくれませんかね」


 茜さんに比べてゆったりと呑んでいた僕はほろ酔い程度で済んだ。おぼつかない足で立ち上がり、茜さんの華奢な肩を揺さぶる。起きる気配はない。


「ったく…、安酒だからって調子に乗り過ぎだよ」


 傍らに置いていたゴミ袋には、大量の酒の缶が入っていた。七割が、彼女が呑んだものだ。

 とりあえず、テーブルの上に放置された空き缶もゴミ袋に入れ、おつまみのゴミは台所にある燃えるゴミ専用のゴミ箱に放り込んだ。


 零れた酒を台拭きで拭き…、一通り綺麗にする。それが済むと、酒気を吐きながら洗面所に向かい、顔を洗い、歯を磨く。鏡に映る自分の目は、バケモノのように充血していた。

 ほろ酔いはやがてだるさに繋がった。脳に針を刺して、そこに水銀でも流し込んだみたいに頭が重い。胃の底に重油でも溜まっているかのように喉の奥がむかむかした。


 まだ冷静な判断ができた僕は、小銭入れを掴むと、サンダルを引っかけて外に出た。近くに自動販売機がある。そこでミネラルウォーターを買おう。僕と茜さんの、二人分を。


 「うう…、気分悪」と、そう一人事を呟きながら、今に崩れそうな鉄階段を降りる。


 九月の夜は何処か寒々として、カツンカツンという足音がやけに目立って響いた。


 アパートの前の路地に出ると、ヒュウッ…と風が吹き抜け、Tシャツの袖から伸びる貧弱な腕を撫でた。アルコールで火照った身体には丁度いい。生温かい息を吐き、リラックスしながら、自動販売機までの道を闊歩した。


 深夜二時だ。当然の事ながら、通りには誰もいない。いるとしたら、成仏できない幽霊か。

 塀の隙間から生える雑草の中で鈴虫が鳴いている。リーンリーンって。見上げれば、墨汁と藍色を中途半端に混ぜ合わせたような空が広がっていて、今ならつま先から浮かび上がって、あの雲の上を泳げそうな気がした。


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