表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう未来なんて売らない  作者: バーニー
12/112

その⑦

 よいしょ、と言って、彼女は重そうな段ボールを抱えて部屋に入ってくる。


「それ、酒ですか?」

「うん、知り合いに、『賞味期限が近いから』って言われてもらった。まったく、私が飲んだくれに見えるのかしらね?」

「飲んだくれでしょうが」


 箱を開けると、中にはビールやらサワーやらの缶が大量に入っていた。どれも見慣れないパッケージで、売れず在庫処分になったものと伺えた。


 元から冷蔵庫で冷やしていたビールを取り出し、開いたスペースに段ボールから取り出した温い酒を入れる。おつまみは、お互いに持ち寄ったものをテーブルの上に並べた。餃子、ニンニク、柿ピーナッツ、ポテトサラダと、宴会には定番の品だった。


 「まだまだ暑いね」「そろそろ涼しくなるでしょう」「乾燥肌だからね」「あんたの顔なんて誰も見ないでしょうが」「あ?」という不毛な会話を交わしながら、僕たちはテーブルに向かい合って座った。缶ビールのプルトップを引くと、プシュッ! と炭酸が弾ける音が心地よく響く。


 今は、忘れよう。それに限る。


 やっていることが、屑の母親と同じことだと知りながら、僕は右手に持った缶を茜さんの方に突き出した。


「乾杯…」

「はい、カンパーイ」

 茜さんが勢いよく、僕の缶に自分の缶をぶつける。


「いやあ、惜しかったね」


 手羽を鷲掴みにし、むぐむぐと齧りながら茜さんは言った。


「あの小説、最終選考には残ると思ったんだけどなあ」

「そうですね…、僕も、悪い出来では無いと思っていました」

「ってことは、今年の受賞作は期待できそうだね。面白い作品を書いたキミを超えた人の作品なんだ。絶対に面白いに決まっている」

「…そんなものですかね」


 僕は餃子を口の中に放り込み、苦い液体で流し込んだ。


「もう無理だな。あの作品、最高傑作なんですよ。魂を削って書いたんです。いやあ、あれを落とされるって…、うーん…、もうダメだろうなあ…」

「まあ、確かに、今までに読ませてもらった作品の中で、一番良かったと思うよ」


 茜さんは苦笑しながら頷いた。


 彼女は書店に勤めているということもあって、沢山の小説を読む(一番好きなジャンルはミステリらしい)。そのためか、彼女の作品に対する感想は的を射て参考になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ