表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう未来なんて売らない  作者: バーニー
11/112

その⑥

 残りの数日、僕はアパートの部屋に引きこもり、スマホを枕元に置いて、出版社から連絡が入るのを待った。「もうダメだ」とわかっていながら、期待せずにはいられなかった。


 最終選考に残っていたら電話が入る。受賞しなくとも、担当編集が付く。そうしたら、作品を発表できるかもしれない。「大成」とはいかなくとも、夢を叶えられるかもしれない。「小説家になりたい」という夢が。


 電話がかかってきた。母さんからだった。電話がかかってきた。母さんからだった。電話がかかってきた。茜さんからだった。結局、出版社から電話がかかってくることは無かった。

 ダメか…、そりゃそうだよな。未来を売ってしまったんだから…。


 そう肩を落として、深いため息をついていると、部屋の扉がノックされた。


 鍵をかけ忘れていたようで、扉がガチャッ…と開き、書店の制服を着たままの茜さんが顔を出した。


「よお、どうだった?」

「ダメでしたよ」


 自分のことじゃないのに、茜さんは少し残念そうな顔をした。


 半開きの扉から身を乗り出し、帰り際のコンビニで買っただろうナイロン袋を、部屋の奥にいる僕に向かって突き出した。


「どうよ? 呑まないか?」

「吞みますか。もうやけくそですよ」


 茜さんが隣の部屋で着替えている間、僕は窓を開けて換気し、布団を畳み、埃っぽくなったフローリングを雑巾で拭いた。テーブルの上に山積みになっていたウイダーゼリーのゴミを袋に入れ、雑巾で拭く。


 冷凍庫から冷凍の餃子を取り出すと、レンジに放り込み、適当な時間チンをした。


 新しい芳香剤に取り替えているタイミングで、部屋着に着替えた茜さんが扉を開けた。


「なんだ、掃除してくれてたの? 別に気にしないのに」

「いや…、流石に女性を部屋に上げるんですから」

「なに? 期待してるの?」

「なわけないじゃないですか」

「だよね、キミみたいな童貞は、小説の中で十分だもんね」

「なんかムカつきますね」


 よいしょ、と言って、彼女は重そうな段ボールを抱えて部屋に入ってくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ