その⑥
残りの数日、僕はアパートの部屋に引きこもり、スマホを枕元に置いて、出版社から連絡が入るのを待った。「もうダメだ」とわかっていながら、期待せずにはいられなかった。
最終選考に残っていたら電話が入る。受賞しなくとも、担当編集が付く。そうしたら、作品を発表できるかもしれない。「大成」とはいかなくとも、夢を叶えられるかもしれない。「小説家になりたい」という夢が。
電話がかかってきた。母さんからだった。電話がかかってきた。母さんからだった。電話がかかってきた。茜さんからだった。結局、出版社から電話がかかってくることは無かった。
ダメか…、そりゃそうだよな。未来を売ってしまったんだから…。
そう肩を落として、深いため息をついていると、部屋の扉がノックされた。
鍵をかけ忘れていたようで、扉がガチャッ…と開き、書店の制服を着たままの茜さんが顔を出した。
「よお、どうだった?」
「ダメでしたよ」
自分のことじゃないのに、茜さんは少し残念そうな顔をした。
半開きの扉から身を乗り出し、帰り際のコンビニで買っただろうナイロン袋を、部屋の奥にいる僕に向かって突き出した。
「どうよ? 呑まないか?」
「吞みますか。もうやけくそですよ」
茜さんが隣の部屋で着替えている間、僕は窓を開けて換気し、布団を畳み、埃っぽくなったフローリングを雑巾で拭いた。テーブルの上に山積みになっていたウイダーゼリーのゴミを袋に入れ、雑巾で拭く。
冷凍庫から冷凍の餃子を取り出すと、レンジに放り込み、適当な時間チンをした。
新しい芳香剤に取り替えているタイミングで、部屋着に着替えた茜さんが扉を開けた。
「なんだ、掃除してくれてたの? 別に気にしないのに」
「いや…、流石に女性を部屋に上げるんですから」
「なに? 期待してるの?」
「なわけないじゃないですか」
「だよね、キミみたいな童貞は、小説の中で十分だもんね」
「なんかムカつきますね」
よいしょ、と言って、彼女は重そうな段ボールを抱えて部屋に入ってくる。




