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序文―■■の独白―

 私たちの目の前には、いつも天秤が置かれている。


 人生は選択の連続で、生きていくためには、何かを選ばなければならない。正しいものを、正しいと信じられるものを選び続けるのは難しく、だから私たちには確かな指標が要る。


 右の皿と左の皿。


 載せるのは、たぶん理想とか、現実とか、そういうのだ。なりたい自分となりたくない自分。やりたいことと、やらなきゃいけないことを、その傾きを何度も比べながら、選び取っていくんだろう。


 右と左を。

 未来と過去を。

 照合し、競合しながら、私たちは生きていく。


 死の重さが生の重さを越えるまで、私たちは生きていく。


「なんだかそれ、馬鹿らしいと思うぜ。僕はそんな理科の実験みたいな生き方したくないけどな。なんかこう、もっと情緒豊かに生きたいもんだ」


 彼はあの日、私にそう言った。そう言ってくれた。くしゃくしゃの髪と、眠たげな眼。もし彼が、もっと早く私の前に現れてくれたなら。もっと早く、私にその言葉をかけてくれたなら。


 きっと私は、間違えずに済んだのだろう。


 じんわりと、右手を包む生暖かい感触。それはヒトの温かさ。さっきまで流れていたのだろう、人の血の温かさ。


 それが冷めていくにつれ、私の中の何かが、確信に近いとこにある、大切なものが溶け落ちていく感覚があった。もう戻れない、のかもしれない。私の天秤はもう致命的に歪んでしまって、どっちが重いのか、わからなくなってしまった。


 足下が覚束なくなる。自分のやってしまったことに対する恐怖、それも当然ある。けれど、それ以上に膨らんだ感情が、行き場を失って、肺から抜けていった。


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 私を、許さないでください。間違えてしまった私を、誰か、裁いてください。


 そしてそれが、君であったなら――、


 ――きっと、それが私の青春の惨禍。


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