イーグル・ナイト
ナツァグと過ごす最後の夜。
僕はナツァグの小屋で一緒に寝ることにした。家族はちょっと呆れていたけれど、笑いながら寝袋を出してくれた。
目を閉じると、まだ小さかったナツァグを連れ帰った日のことを鮮明に思い出せた。
初めて僕の呼び声で、僕のもとに飛んできてくれたときのこと。
初めて僕の手から餌を食べてくれたときのこと。
ナツァグの重さに耐えられず、次の日に腕が上がらなくなったこと。
どの瞬間も思い出せる。懐かしくて、愛おしくて、涙があふれてきた。
ナツァグが翼を広げた瞬間に、僕の顔をなでる風が好きだった。
翼を広げたナツァグの勇壮な姿が好きだった。
甲高い声がかわいくて好きだった。
空から獲物を見つけた瞬間の滑空が好きだった。
僕もナツァグと並んで飛びたいと、ずっと思っていた。
気がついたら僕は空を飛んでいた。
風を切る感覚がたまらなく心地よい。翼を広げる解放感。
ここは自由だ。自分を縛る枷はない。
なんて気持ちがいいんだろう。
だけど誰かが僕を呼ぶ。
戻ってこい。降りてこいと命令する。
せっかくの楽しい気分が台無しだ。僕の邪魔をするやつはどいつだ?
僕は鋭い鷲の目で、下界を見下ろした。
馬に乗った人間が、僕に命令していた。
抗えない力によって、僕はその人間の元へ降りていく。
地上になんか戻りたくないのに。
ずっと飛んでいたいのに。
空から渋々降り立った僕が目にしたのは、――――そう、それは僕自身だった――――。
ハッとなって、見回すとそこは真っ暗で、僕は寝袋にくるまって、鷲のにおいでいっぱいの小屋の中にいた。
夢を見ていたらしい。
僕は気づいた。
――――違う……。
本当はずっと前から気づいてた。
気づかないふりをして、目を背けていただけだったんだ。
僕はナツァグに目を向ける。
人間の生活に合わせて訓練され、こんな暗い小屋の中で、さらに目隠しをされたまま眠っている、僕の愛しい相棒を――。
足緒に繋がれ、囚われの身となっている、僕のなによりも大切な相棒を――。
その姿が、急に痛々しく見えた。
そうだよな……。お前がいる世界は、ここじゃない……。