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イーグル・フェイト



 オユンは有名人だ。

 もともと女の子のイーグル・ハンターは数がとても少ない。


 その珍しさからオユンは注目の的だった。


 オユンはSNSで、バータルの写真を投稿していた。世界中の人がそれを見ていて、どこかの国の学者みたいな人も、オユンとフレンドだった。


 僕とオユンは住む世界が違う。それは分かっていた。


 でもオユンのSNSは、たまにこっそり見ていた。

 別にオユンのことが気になるとか、そういうことじゃない。


 オユンは(わし)についてものすごく勉強していて、そこには僕が知らないこともたくさん書いてあったからだ。


 オユンは観光の仕事も手伝っていて、他の国から来たツアー客に、狩りの様子を見せてあげたりしていた。その仕事は、普通に狩りをするよりも稼げるらしい。


 そんな華やかなオユンとは反対に、僕はナツァグと二人だけで狩りに行く。単独の狩りは効率が悪いから、家族にはいつも小言を言われるけど。


 でも僕は誰にも邪魔されずに、ナツァグを見ているのが好きだった。


 美しい狩りの姿も、ときどき不意に鳴くときのかわいい声も、最高に大好きだ。


 だから、オユンがいきなり狩り場に現れたときにはびっくりした。

 ナツァグを見つめすぎていて、オユンの気配にまったく気づけなかったから。


「狩り……うまいね」

 オユンがぽつりとつぶやいた。僕はナツァグが褒められたので、すごく嬉しくなった。


「そうさ。ナツァグはすごいんだ。この前、狼を仕留めたんだ。すごいだろ?」


 すごく小さい狼だったことは、言う必要がないので黙っておく。


無敵(ナツァグ)か。……大きくなったね。

 その子、メスなんだからもっと可愛い名前つけてあげれば良かったのに……」


「自分だって英雄(バータル)なんてつけてるのに?」


「だってこの子はオスだもん」


 オユンの言葉に僕は驚いた。オスの鷲(サルチャ)は狩りに不向きだから、育てるなんて聞いたことがなかった。


「え? オス!? 普通、狩りに使うのってメスだろ?」


「だって、ほうっておいたらこの子……兄弟に殺されてたもん……」

 

 (わし)はメスの方が体が大きくて強い。鷲のヒナは生まれてすぐに体の大きなメスが他の弱い兄弟を殺すことから始まる。巣に残っているヒナは基本1匹だけだ。そこにオスが残っていることはとても少ない。


 僕はオユンが巣立前のヒナ(コルバラ)の、それも弱いオス(サルチャ)を選んでいたことを初めて知った。


 僕がナツァグを捕まえたのは、親鷲(おやわし)が子供に狩りを教え始める時期だった。若鳥(アク・バラパン)の時期の鷲を捕まえれば、狩りをすぐに覚えるから楽だ、と父さんが教えてくれたからだ。


 オユンがわざわざ弱いヒナを選んだ理由を知りたくはなったけれど、雪原に獣の足跡を発見したので、すぐに頭を切り替える。目を凝らし、足跡の行く先を探る――。


 小さな点の先に、兎がいた。


「……兎だ。見つけたのは僕だけど、お先にどうぞ? また同時に飛ばされたらたまんないからね」


「……ホントにあんたって、いつまでも根に持つタイプね……。そんなんじゃモテないわよ? まあいいわ。お先に失礼」


 オユンがバータルの目隠しを外す。

「バータル! 行っておいで!」


 バータルがオユンの腕で翼を広げると、羽が僕のすぐそばまで来た。


 仲間の狩りの気配を感じたせいか、目隠しをしているナツァグが反応する。僕はナツァグをなでながら、落ち着くように声をかけた。


 バータルの狩りは俊敏だった。スピードはナツァグより速いかもしれない。

 少なくともバータルは弱いオス(サルチャ)には見えなかった。


 その日の狩りは、なかなか成果のある日だった。

 バータルが獲物を追い込み、ナツァグが狩る。その逆パターンでも、狩りの成功率は高かった。


 意気揚々と帰る道中で、ナツァグが変な声で鳴いた。


「ナツァグ、どうした? まだ興奮してるのか?」


「うちのバータルに惚れたんじゃない?」


「え? まさか?」


「ナツァグ……そろそろ繁殖期なのかもね。オスに反応してるのかも。…………おじいちゃんが言ってたよ。

 もしバータルに彼女ができたら、その子と一緒に自然に還しておやりって……」


 僕はおもわずオユンの言葉をさえぎった。

「ダメだ!」


「なによ、いきなり。おっきい声出さないでよ!」

 オユンが僕のことをにらんだ。


「ナツァグは、還したくない……」


「なに言ってんの? 鷲は数年で自然に還す決まりでしょ? 新しいヒナを増やしてもらわなきゃ! でないと次の鷲に出会えないじゃない!」


 そんなことわかってる。オユンに言われなくたって知ってる。だけど、嫌なものは嫌なんだ。


「悪いけど、もう君と狩りはしない……。バータルとは、もう会わせない」


 僕が馬の速度を上げると、オユンが追いかけてきた。


「ちょっとちょっと! ヤダ! 何よあんた! 鷲相手に嫉妬してんの? バータルに?

 やめてよ! ナツァグってあんたの恋人なわけ?」


「うるさいな。だったらなんだよ!」


 いつからか思うようになっていた。

 僕が(わし)だったら、ずっとナツァグと一緒にいられるのに。


 こんなに息がピッタリ合うパートナーなんて、もう絶対に出会えない。


 鷲の(つがい)は生涯に渡ってずっと添い遂げる。

 人間と鷲の関係なんて、たった数年だ。短すぎる。


 だけど、僕がナツァグと過ごせる時間は、もうほとんど残ってはいなかった。


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