イーグル・ハント
僕が父さんと狩りの練習をしていると、馬に乗った二人組がこちらに向かってくるのが見えた。
やってきたのはクラスメイトの女の子オユンと、オユンのおじいさんだ。
オユンの手にも鷲が乗っている。鷲の体格は、すでにオユンの顔よりも大きい。でもオユンの鷲は、僕のナツァグよりは小さかった。
オユンのおじいさんが、父さんに話しかける。
「やあ、息子さんと狩りかね」
父さんが答えた。
「ええ、そちらはお孫さんとですか。オユンちゃん、もう収穫はあったかい?」
オユンは馬の尻に乗せた狐を視線で示した。その顔は自信に満ちあふれている。
「私とバータルが捕まえました」
「そりゃすごい。うちの倅は、いま兎を逃したところさ」
(言うなよ、父さん……!)
僕は恥ずかしさと悔しさで、オユンたちから目をそらした。僕の手に乗るナツァグのお腹をなでながら、心の中でナツァグに謝った。
(ごめんよ、ナツァグ……。お前が悪いんじゃないんだ。僕のタイミングが悪かったんだ……。次は成功しような)
オユンのおじいさんが感心したように声を上げた。
「ほお、この雪の中で兎を見つけましたか。おたくの息子さんは目がいいようだ」
狩りの達人に褒められて、僕はなんだかくすぐったくなった。
ふと、真っ白な大地で何かが動いた。
僕はすぐにナツァグの目隠し帽を取る。
ナツァグの鋭い眼は、すでに標的をとらえていた。
僕が声をかけるより先に、すでに飛び立つ体勢に入っている。
「狐だ! いけ! ナツァグ!」
「バータル!」
僕とオユンの声が重なった。同時に鷲を放ってしまったらしい。
「あ、コラ!」
あわてた僕の父さんとは逆に、オユンのおじいさんは少しも動じないで、あっという間にバータルに結ばれている足緒をつかんだ。
そして目隠しをかぶせると、興奮するバータルをなでながら、根気強く鎮めの声かけをして大人しくさせる。
それからゆっくり一息つくと、ものすっごい怖い声でオユンを怒った。
「ばかもんが! 鷲同士をケンカさせる気か!?」
その声に思わず、僕まで体がすくんでしまう。
その後も延々とオユンのおじいさんのお説教が続く。あまりの怖さにオユンは半泣きになっていた。
そしてなぜか僕にまで、お説教のとばっちりが飛んできた。
(ええ!? なんで僕まで……!?)
お説教がようやく終わったころには、僕のナツァグはとっくに狐を捕まえ、獲物の肉を美味しそうに味わっている真っ最中だった。
なんて最悪なんだ……!
僕はナツァグの、記念すべき狐狩り初成功の瞬間を見ることができなかったのだ。
くそ、オユンのせいだ。
オユンさえここに来なかったら、ナツァグの狐狩りの瞬間を目に焼きつけておけたのに……!
そんなこんなで、しばらく僕は学校でオユンと会っても、口をきかなかった。
この恨みは、たぶん一生忘れないと思う。
※目隠し帽[トモガ]:鷲を従順にさせるために最も重要な道具とされる。狩りをするとき以外は、ほぼ一日中目隠し帽を被せておくイーグル・ハンターもいるらしい。