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05.なかなか上手くいかないわ

 あれから、いろんな男の子から話しかけられた。

 クラスメイトに上級生、平民も貴族も選り取り見取りだった。


 でもね、恋愛にまで発展する人はいなかったの。

 何回か街に遊びに行ったんだけどね。

 街に出たついでに宝石店に行ってアクセサリーの紹介をすると、みんな苦笑いして次の日からよそよそしくなるの。


 別に買って欲しいって言ってるんじゃないのよ?

 ただ、私の家で作ってる商品を、知ってもらおうと思っただけなのに。

 まぁ、貴族子息の方には、少し他の人にも宝石付きアクセサリーの事を広めてくれないかな、って下心があったのは認めるけどね。

 なかなか上手くいかないわ。

 何でキラキラ輝く宝石の良さが、分からないんだろう。



 そして、私に話しかけてくれる人は、侯爵令息のダンテ様だけになってしまった。


 放課後、いつもの裏庭で彼を待つ。



「ダンテ様ぁ!お会いしたかったです」


「可愛いエレ、私もだよ」



 いつからか、ダンテ様は私の事を"エレ"と呼ぶようになった。そして、会うと私を必ずハグしてくれる。


 でも、まだそれだけだ。

 前に突然キスされそうになった事があったけど、咄嗟に位置をずらして彼の唇の近くの頬にキスにした。

 私はそんなに安い女じゃないわよ!って、そんな事はさすがに言えないので、恥ずかしがっておいた。

 告白もされてないのに、キスに応じると思っていたのかしら?


 前世で私は成人していたので色々経験はあるけど、そういうのは、ちゃんと私を惚れさせてからにしてほしい。

 今許せるのは、多少のスキンシップだけよ!



「ねえ、今日はシェリーズに行かない?素敵なアクセサリーが発売されたの。ダンテ様にぜひ見ていただきたいわ」


「シェリーズは宝石店だよね?アクセサリーも売ってるの?」


「最近できたの!アクセサリーに小さな宝石が埋め込まれているの。ね?見るだけでいいから、お願い」


「しょうがないな、見に行ってあげるよ」



 よし!とりあえず興味は持ってくれたみたいだ。

 高位貴族のダンテ様に認めてもらえば、評判になるかも!

 私は彼と手を繋いで、街に向かった。




 アズロニア男爵家が出店している宝石店シェリーズ。

 キラキラ輝く守り石の横に、小さくカットした宝石の付いたアクセサリーがケースに入って並べられていた。



「ね、素敵でしょう?今までのシンプルなアクセサリーと違って、宝石が埋め込まれているから華やかさが違うわ。これを付ければ、お茶会やパーティーで注目の的よ!」


「確かに綺麗だね、買ってあげたいけど少し高いかな」


「もう少し生産量が増えれば、コストが下げられるんだけど、まだ難しいのよね」


「そうか……じゃあ、その青い宝石がついたネックレスを貰おうかな。今手持ちが少ないから、ガルニシア侯爵家に請求してもらっていい?」


「いいの?ありがとう!サファイアのネックレスね貴方の目の色?」


「そうだよ、やっぱり好きな人には、自分の色の物を身につけていてもらいたいよね」



 何て素敵な考え方。

 もしかして、このネックレス私へのプレゼントなのかしら?告白されるのかな、もしかしてプロポーズされちゃうかも!

 ドキドキしながら、私は店員がネックレスをプレゼント用に包装しているのを眺めていた。



「ありがとう、ラッピングも綺麗だね」



 店員にも優しく言葉をかけてくれるダンテ様。

 お会計を済ませてお店から出ると、私達は公園に向かった。


 少し日が沈み始めた頃、公園のベンチに二人並んで座る。



「エレ今日は良い買い物が出来たよ、ありがとう」


「気に入ってもらえて良かったわ。実はうちの男爵家で経営しているお店なの」


「知ってたよ」


「そうなの?なら言ってよー」


「ふふっ、エレ少し目をつぶってくれる?」



 言われた通り私は静かに目をつぶった。

 キスされるのかと思ったけど、そんな事もなく。

 何かガサゴソ音がする。


 ヒヤッと首元に冷たい物が触れた。これはネックレス?

 首の後ろに彼の手が触れた。

 やっぱり私のために買ってくれたのね。

 手が離れたのを確認して、そっと目を開けようとした。



「ダメ、まだ目を閉じていて」



 そう言われて、私はまた目を閉じる。

 静かな時間が流れた。

 何も言ってくれないと、目をつぶっている私は、何が起こっているのか分からないんだけど。

 そう思って、話しかけようとしたら彼の声が聞こえた。



「あぁ、やっぱり似合っているね。こうして見ると、彼女が本当に私の色のアクセサリーを身に付けてくれているようだ」


「彼女?」



 彼は私を見ながら、私ではない誰かを見ているようだった。



「エレ、話さないで、君の話し方は彼女と違うから。声は似ているんだけどね。もったいない」


「彼女って誰ですか?」


「『ダンテ様、お慕いしております』って言ってくれたら、教えてあげるよ」



 彼は優しい声で話しているのに、何だか恐ろしく感じた。

 逆らうのも怖くて、私は声に従った。



「ダンテ様……、お慕いしております」


「エレ、エレッ、エレナ!私も貴方の事を愛しています」



 すると突然興奮したような声で、私でない人の名前を呼び、彼は私を抱き締めた。

 怖かったけど、私は目を開けて必死に抵抗した。



「エレナ?私は、エレーナよ!」


「あーその目の色、違うんだよね。ピンクじゃない、緑じゃなきゃ。やはり目はつぶっていてくれるかな?髪色ももう少し薄いピンクになればいいのに」



 私の顔を覗きこみながら髪を撫でた。

 そして、彼は私の中の誰かをうっとり見つめて、恐ろしいほど綺麗に笑った。



「嫌よ、私はエレナじゃないわ」



 私が強く睨むと、彼の拘束が少しゆるんだ。

 その隙に、私は腕の中から逃げ出し後ずさる。

 そして、首にかけられたネックレスを外して彼に押し付けた。



「さようなら、もう会わないわ」


 別れの言葉を言い捨てて、私は逃げるように寮に向かって駆け出した。




「楽しかったよ、私のエレナ……またね」


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