02.生まれた時から思ってた
『可愛いわねぇ』
ーー当たり前でしょ。
『国一番の美人さんになるぞ』
ーー魔法の鏡があったら、間違いなく私の名前が呼ばれるわね。
『いい子ね』
ーー幼稚なイタズラなんて私はしないわ。
『うちの子は、天才だな!』
ーーこんな簡単な問題、朝飯前よ。
『私達はあなたを愛しているわ』
私の両親は、とてもいい人達だ。
なかなか子供ができなかったらしく、結婚して7年目でようやく生まれたのが私。
私が生まれた家は、アズロニア男爵家。
領地の山で鉱石が採掘されるので、その原石を宝石に加工する工場と、宝石を取り扱うお店を経営していた。
宝石商と言えば、かなり裕福ないイメージがあったけど、父は人が良くてあまり商売上手ではなかった。
もっと上手く商談すれば、稼げるはずなのに。
と、私は生まれた時から思ってた。
そう、私には前世の記憶がある。
最後の記憶は無いけれど、生まれ変わったんだと思った。
前世で私は、アクセサリーショップの店員をしていた。
趣味で自分でも作っていたし、キラキラした物が大好きだったの。
だから、この家の子供に生まれてきた事に感謝した。
本当に嬉しかった。
「この顔と髪の色は、やっぱりヒロインだよね」
自室の鏡に映る自分を見ながら呟いた。
私は両親に愛されてスクスク育ち、今日十歳の誕生日を迎えた。
この世界には、神様の加護があるらしい。
そして魔術師がいて、魔物もいる。
ファンタジーの世界!
国の名前はアイルテール王国。
聞いた事がない名前だった。
ゲーム、小説、漫画どれかの世界に転生したのかな?と思ったんだけどね。
それとも、私が知らない物語?
だとしたら、せっかく異世界転生したのに意味ないよね。
まぁ、だいたいピンク髪美少女ときたらヒロインで、悪役令嬢は高位貴族でしょう。
それか、ざまあ系?
悪役令嬢主人公のお話も流行ってたからなぁ。
このへんは、十五歳になって学園入学してからよね。
別に私は王子様を狙ったりしないから大丈夫だと思うけど。
だって、王妃教育とか絶対面倒臭いじゃん。
この家には、私しか子供がいないから、お婿さんを探さないといけないし。
だから、旦那様はカッコ良くて借金が無ければいい。
男爵家の商売の利益になる家柄の人なら完璧ね。
父も母も髪と目は茶色。
なのに私はピンクの髪と目。
普通は、愛人の子だとか、母が浮気してーとかドロドロ設定がありそうだけど、幸い家には無縁な話だった。
母の家系に、私と同じ色を持つ双子の姉妹が居たんだって。だから、親族に目だけ髪だけピンクの子が生まれる事はあったみたい。でも、私みたいに、顔立ちも色も受け継いだ事はなかったって。
何か特別な感じがする!
これは、私加護持ってるんじゃない?
って期待したけど、今日何も言われなかったから、多分加護は持って無いんだよね。
加護持ちが生まれると、王家お抱えの魔術師が感知して、王家と加護持ちを守る一族に知らせる。
で、その子が五歳になると王家から親に伝えられて、子供が十歳になったら親が本人に伝える。
おとぎ話のように語り継がれている話だけど、王家がそれを否定していないから本当なんだと思う。
「ピンク髪で加護っていうと、魅了が定番だから無くて良かったのかも」
無意識に魅了を振りまいて断罪されたり、魅了の加護は危険だからって監視される、とかありそうだもんね。
これだけ美少女なら、学園に入る頃には加護や魅了なんて無くても、周囲の殿方は私にメロメロよ!
「お前、本当に鏡好きだな」
私が鏡の中の自分を見ていると、後ろから声をかけられた。
彼は従兄妹のイシュト。
父の姉の子供でノワール伯爵家の長男、私より一つ年上だ。
「いいでしょ、無断で私の部屋に入って来ないでよ」
「ノックはしたけど?返事がなかったから勝手に入った。今日の主役がなかなか部屋から出て来ないから、呼んでこいって言われたんだよ」
「もうパーティーは終わったでしょ?」
「父さんがお前と話したいってさ、何か宝石を加工して新しいアクセサリー作りたいって言ってたんだろ?」
「話を聞いてくれる気になったのね!待ってて、すぐ行くから」
私は、アクセサリーのデザインを描いたノートを持って、伯父様が待つ客間に向かった。
この世界の宝石は守護石と言って、前世のお守りのような袋の中に入れて持ち歩くのが一般的だ。
だから、一人一つの宝石しか持たない。
アクセサリーはあるのよ?
でも、ガラスを加工した物や、安い鉱石を加工した物、高い物でも、金や銀を使ったシンプルな飾りの物ばかり。
そこに高価な宝石を付けるって発想がないの。
キラキラ輝く宝石が、袋の中に閉じ込められているなんて、もったいない!
平民には高価だから、広めるのは難しいかもしれないけど、貴族の人は買ってくれると思うのよね。
これは男爵家だけでは実現できない。
だから、領地に金属加工の職人さんの工房を持つ、伯父様に協力してもらえるように今からプレゼンするの。
十歳の子供の言う事と、真剣に聞いてもらえるか分からないけど、長期戦は覚悟している。
キラキラ輝く宝石達、待っていて!
私の手で必ず袋の中から出してあげるからね。