16.【閑話】そろそろちゃんと[イシュト]
「あ、イシュト!お客さんだぞ」
「誰だ?」
「ピンクの髪の可愛い子」
俺に会いに来るピンクの髪は一人しかいない。
そう思いながら、廊下に出て驚いた。
「エレナ嬢? 二年の教室まで来て、どうしたんですか?」
「イシュト様、突然来てしまい申し訳ありません。少しお時間よろしいですか?」
おぅ、こんな所をサージスに見られたら、何を言われるか分からない。
依頼されたアクセサリーの件で何か言い忘れた事があったのかもしれないな。
とりあえず落ち着いて話すために、中庭に移動した。
「アクセサリーの試作品は、以前エレーナが持って行き見ていただいたと思いますが、何か不都合がありましたか?」
「いいえ、とても素晴らしい出来上がりでした。来週末に完成すると聞いています。引き続き、よろしくお願いします」
良かった、エレーナに彼女とのやりとりを頼んでいたので、何かあったのかと思った。
それじゃないなら、彼女が俺に何の用があるんだ?
不思議に思っていると、彼女が用件を話した。
「私、エレーナ様からネックレスとブローチを借りていて、お返しするのを忘れていたのです。よろしければ、イシュト様から返しておいていただけますか?」
そう言って渡されたのは、俺がエレーナに渡した、宝石付きのネックレス第一号と、試作品のブローチだった。
「何で俺に?」
「エレーナ様に直接返しても良かったのですが、イシュト様にお知らせしておこうと思いまして」
「何を、ですか?」
「このネックレスをエレーナ様が、私に貸してくれた事をです」
「それは……」
「エレーナ様が、あまりに簡単に貸してくれたので最初は気づきませんでしたが、イシュト様の瞳の色を見て分かりました。そのネックレスは、イシュト様がエレーナ様の為に作った物でしょう?」
「はい」
「エレーナ様はアクセサリーや宝石に詳しいようですが、この世界の常識に疎いようなので、ちゃんと話さないと気付いていただけませんよ?」
「やっぱり、気付いてなかったかぁ」
俺は大きく溜め息を吐き出しながら、彼女から受け取ったネックレスを見た。
毎日付けてくれとは言わないが、着けている所を俺は一度も見た事がなかった。
受け取ったのに着けないし、人に簡単に貸し出すし。
これをずっと身に付けていれば、変な男に声をかけられることはなかった。
これには、そういう意味がある。
「教えてくれて、ありがとうございます」
「いえ、頑張ってくださいね」
そう言って、彼女は席を立ち帰って行った。
サージスにも、そろそろちゃんと話せと言われたし、頑張るか。




