13.ヒロインは私じゃなかった……
昼休みが終わる時間になったので、エレナと放課後中庭で話をする約束をして別れた。
自分のクラスに戻って、午後の授業を聞き流しながら、私は今までの自分の行動を振り返る。
子供の頃から両親にも周りの大人達にも、可愛がられた記憶しかない。
領主の一人娘で、これだけ可愛いのだから仕方ないよね。
しかも、前世の記憶があるので子供特有の悪戯もしなければ、変な我儘も言わない手の掛からない子供だった。
みんな自分達の子供と比べて、可愛くて良い子だと褒めてくれた。
だから、学園に入って男子にチヤホヤされるのも当たり前だと思ってしまった。
ストアール学園が通称恋愛学園だと聞いて、前世のように自由に恋愛したり、男友達を作ってもいいと思い込んでいた。
実際は、爵位に関係なく恋愛してもいいというだけで、周囲の人達は未来の伴侶を真剣に探して恋愛いたのに……。
気付いた時には遅かった。
私はすでに一部の人達の、ちょうどいい遊び相手となっていた。
宝石の付いたアクセサリーをこの世界に広めるために、適当に相手の下心をあしらいながら、彼らは男友達だと自分に言い聞かせてデートの相手をしてきたけれど、それも間違いだったとエレナに教えられた。
私は何をやっていたのだろう。
これじゃあ、複数の男を誑かす悪女だと思われてもしょうがない。
しかも、私のした事で、エレナにも被害が及んでいたなんて……。
彼女は手紙の件を注意しただけで、私を非難しなかったけれど、それ以外にも私と間違えられて色々嫌な思いをしてきたに違いない。
ーーちゃんと謝らないと。
そして、私はこの世界の常識を学ばなければいけない。
自分は一度目の人生で、学生を経験して社会人になったのだから、改めて学ぶ事もないと思っていた。
実際計算はできるし、言葉の読み書きも子供の頃から問題なかった。
子供の頃の領地でしていた勉強が、前世と似ていたので余計に慢心した。
加護なんて迷信だと思っていた。
魔術は遠い世界の物語だと思っているし、魔物なんて見た事がない。
ーー私は今まで、この世界の平和な地に住んでいたんだな。
実際に守護石には加護が付与されている。
そう、神の加護は本当にあったんだよね。
という事は、魔術もあるし魔物も存在するのかもしれない。
私が知らない……知ろうとしなかっただけで、これがこの世界の常識。
ーーこれから、この世界の事を知っていこう。
そう決意して窓から外を眺めると、国花であるピンクローズが目に入った。
ピンクローズと同じ色合いの、髪と目の色を持つエレナ。
あの子本当に転生者じゃないの?私と違って全てがチートみたいなんだけど?
顔が可愛いのは、私と同じだから当たり前。
バレン・タインデイとホワイトデイを企画して、クロニア男爵家が出店している王都の菓子店は更に大繁盛!
私も常連になりました。
それに、何よあの営業トークは!
こちらから無理に売り込むんじゃなくて、さりげなく相手から質問を引き出していた気がする。
商品の事を、相手から聞かれたから答えた風を装いつつ、全て説明して売り込みに成功した。
しかも、可愛い女の子達がキャッキャと話す声は中庭に響き渡り、周囲の男子も女子も聞き耳を立てていた。
バレンスイートでセット商品の販売を検討する事を、エレナが話した時の女子の目の輝きはすごかった。
周囲の人達に聞かせる事まで考えて話してたのかな?
本当に敵う気がしない。
ヒロインは私じゃなかった……。
彼女こそ、物語の主人公だよね。




