12.後編 私よりずっと大人びて見えた
「見ていて下さい」
そう言って、エレナは隣りのテーブルに居た二人の女の子に話しかけた。
いつのまに手に持っていたのか、タインスイートの新作クッキーを手土産に、二人の会話に加わる。
彼女達は、バレンタインに彼氏が出来た話からホワイトデイの話を始めた。
エレナがクッキーを出したのは、話に加わる為だけじゃなくて、話題をホワイトデイに持って行くのが目的だったのかもしれない。
いや、彼女達がすでにホワイトデイの事を話していたのも確認して動いたのかも?
それから、彼女はタインスイートで販売するホワイトデイの商品紹介をしっかり売り込んでいた。
タインスイートで、お菓子とアクセサリーをセットにした商品を販売するの?!
うちの商品使ってくれないかな、すごい宣伝になりそう。
あ、でもイシュトが、そんなに数は作れないって言ってたっけ、職人さんがまだ少ないんだよね。
そんな事を考えていると、アイリスって呼ばれてた子が、エレナの着けていたアクセサリーに気付いてくれた。
「私、先程から気になっていたんですが、エレナ様のネックレスあまり見ないデザインですね。ブローチもとても素敵」
何て見る目がある子なの!
ブローチも素敵でしょう?
私のデザインしたアクセサリーを褒めてくれて嬉しい。
私はもっと彼女達の話が聞きたくて、近くの椅子に移動して聞き耳を立てた。
「だって、キラキラ輝いているのよ。ネックレスの中心で輝いている、これは宝石かしら?守護石にしては小さい気がするけれど」
「アイリス様、これは守護石ではないんです。シェリーズ宝石店で最近売り出された宝石のネックレスです」
「宝石なのに守護石ではないの?」
「守護石は高価ですから、なかなか手に入りません。これは守護石ではありませんが、加護を付与する前の正規の宝石です。守護石の半分の金額で購入できます」
「守護石の半分でも高いわよね」
「そうですね。でも、特別な日の贈り物に相応しい品だと思いますよ」
「確かに、婚約する時に贈られたら素敵ね」
なるほど、特別な日の贈り物に、と宣伝すれば多少高くても買って貰えるし、量産しなくてもいいよね。
すると今度は、ユリアと呼ばれていた子がエレナのネックレスを見て言った。
「エレナ様、そのネックレスは婚約者の方に贈っていただいたの?」
「ふふっ、実は、これ借り物なんです」
「そうなんですか?」
「私、いつか守護石を買いたいと思っているんです。それで、シェリーズで守護石を購入した時に、予約注文するとネックレスに加工できると聞いたので、ネックレスの使い心地を確かめたくて今日だけお友達に貸していただいたんです」
「守護石もネックレスに加工できるんですね」
まさか借り物だと素直に話すとは思わなかった。
婚約者に贈られたと自慢して『エレナ様が持ってるなら、私も欲しい!』みたいな方法で売り込むのかと思ってた。
しかも、守護石がネックレスに加工できる話までしてくれるなんて!
ユリアは守護石の加工に興味があるみたいね。
イシュト、予約殺到したらごめんなさい。
「ブローチにも宝石が?」
「ブローチには、宝石を加工した時に出た欠片が使われているそうです。でも、欠片だからこそ形が一つ一つ違うので、光が当たると輝き方が違うので楽しいですよね」
「本当ね、五つの小さな宝石の欠片が、それぞれ違う輝きを放っているわ!」
アイリスがブローチにも宝石がついている事に気付いてくれた。
そうなのよ!欠片の方が輝き方が綺麗なくらい。
アクセサリーを作るのにピッタリなの。
「アイリスは、本当にアクセサリーが好きなのね。欠片でも宝石だから、こちらも高いのかしら?」
「欠片は加工に手間がかかるので安くはないのですが、数ヶ月お小遣いを少しずつ貯めれば私でも買えますわ」
「タインスイートに行く回数を減らせば……」
「アイリス、それは無理よ。ロイズ君を見れないなんて!」
「そうね、恋人と癒しのロイズ君は別よね」
この二人は、タインスイートの店員、ロイズ君のファンなのね。同士よ!一緒にタインスイートに行きたい。
それから、彼女達の言葉を聞いたエレナは、少し考えた後にこう言った。
「もし、バレンスイートでこのブローチとお菓子を、ホワイトデイ商品として、セットで販売したら……」
「欲しいですわ!」
「私も!」
二人とも立ち上がって手を上げた。
嬉しい!けど、勝手に決めちゃっていいのかな?
職人さんの事もあるから、相談しないと……。
「アクセサリーは職人さんの手作りなので、あまり個数は用意できないかもしれませんが、シェリーズと交渉してみようと思います」
「エレナ様!よろしくお願いしますわ」
「もし発売されたら、それを贈ってもらえるように、事前に彼とシェリーズに行ってみない?」
「アイリス、私も彼を連れて行きたいから、一緒に行きましょうよ」
あ、良かった、エレナは職人さんの事も考えてくれていたのね。
ちゃんと交渉してみると話していたし、もしダメだったとしても大丈夫よね……。
ふとエレナを見ると目が合った。
私を見て笑みを深める彼女を見て、この提案は断る事ができないと悟った。
イシュト、ごめんね……ガンバッテ。




