11.前編 私よりずっと大人びて見えた
バレンタインを企画したのは、彼女だったのね。
しかも、今度はホワイトデイまで?!
はい、転生者確定!間違いないでしょう。
しかもクロニア男爵家があの可愛いタインスイートを経営していたなんて!
猫耳萌えなのかしら?
彼女とは、お友達になれる気がする。
ホワイトデイといえば、男子が女子に三倍返しで貢ぐ日。
ーー宝石付きのアクセサリーを売り込むチャンスよ!
私はイシュトから貰った第一号ペンダントと、欠片石を使い低価格を実現したブローチを持って、お昼休みに普段はあまり行かない中庭に向かった。
とりあえず、いろんな人に見てもらわないとね。
中庭を見渡すと、青いベンチの近くにあるテーブルに座る人に目を奪われた。
そこでは、淡いピンクの髪と緑の目を持つ美少女が、一人でお弁当を食べていた。
わぁ、あれがエレナだよね。
本当に私にそっくりだ。
これは間違えてもしょうがない。
ちょうどいい、彼女も転生者なら私達は仲間よね?
アクセサリーを売り込むのを手伝ってもらおう。
私は彼女の後ろに回り近付いて、そっと耳元で囁いた。
「エレナも転生者なの?」
「?!」
「ごめんなさい、驚かせちゃった? 私エレーナって言います」
「エレーナ様、いきなり耳元で話すのはやめて下さい」
顔を赤くして耳を押さえた状態で、上目遣いで下から睨まれても可愛いだけだ。
私も今度、この仕草真似してみよう。
同じ顔だけど、精神年齢は私の方が上だ。
まずは、転生者だと認めさせて、彼女にアクセサリーの良さを分かってもらおう。
「ここ座ってもいい?」
「どうぞ……。私はクロニア男爵家の長女エレナと申します」
「知ってるよ。で?エレナも転生者なんでしょ?」
「え?」
役者だねぇ、本当に意味が分からないって顔をしている。
でも、私は騙されないよ。
「とぼけなくていいよー。バレンタインとホワイトデイは、貴方が企画したんでしょ?異世界転生者ですって言ってるようなものでしょ」
「エレーナ様が、何の事を言っているのか良く分かりません」
「だからー、前世の記憶を持ったまま、この世界に転生したんでしょ?」
「いいえ、前世の記憶を持った人の物語は図書室で読んだ事がありますが、私は違います」
なかなか正直に話してくれないエレナに苛々してきた。
別に、脅そうとしてるわけじゃないんだから、素直に白状しなさいよ!
「じゃあ、何でバレンタインなんてイベント考えついたのよ!」
「お友達に、素敵な人に出会い恋をするキッカケが欲しいと相談されたので、バレンスイートとタインスイート共同で、気になる人にお菓子をプレゼントするイベントを企画しました」
「もしかして、名前はお店から?」
「そうです。それと、ホワイトデイの発案者は二学年のサージス・スワリエ侯爵令息です。お返しをする日はないのかと言われて、告白の返事をするイベントを企画しました。名前は発案者であるサージス様の髪色から付けました」
スラスラと出てくる企画秘話に私は困惑する。
前世の記憶もなく、一から思い付いたの?!
「って事は、エレナは転生者じゃ、ない?」
「はい、エレーナ様は前世の記憶をお持ちなんですか?」
「う、あ、はい。前世は、別の世界に住んでいました」
彼女の質問に、思わず素直に答えてしまった。
信じてもらえる訳がない、誤魔化せばよかった。
恐る恐るエレナの顔を見ると、驚いてはいるようだけど……。
私が予想していた反応とは違った。
「まあ!素敵!その世界には、バレン・タインデイとホワイトデイがあったんですね?」
「そう、ごめん勘違いしてた。同じ顔だし、私と同じ転生者なのかなって思って」
「気にしないで下さい。という事は、バレン・タインに複数の男性にチョコレートを贈ったのも、何か理由があるのですか?」
「バレンタインには、義理チョコって言うのがあって、お世話になった人とか、学生の頃はクラスの男子全員に配ったりしてたから」
頬を赤くして、嬉々と質問してくるエレナ可愛い。
私が勘違いして問い詰めた事も、『気にしないで下さい』の一言で終わらせてくれた。
転生者じゃないなら、間違いなく精神年齢は私の方が上なはずなのに、何だが彼女に勝てる気がしない。
「悪意は無かったんですね」
「悪意なんて無いよ!でも、人脈を広げたいって下心はあったかな。だからメッセージカードの言葉も、友達に書く内容じゃ無かったかもしれない」
待って、悪意があると思われてたの?
もしかして、危うく悪役令嬢まっしぐらだった?
私がメッセージカードの話をしたら、エレナの表情が少し険しくなった。
「メッセージカードに関して、ずっと言いたかった事があります。自分の名前を"エレ"と愛称で書かないで下さい」
「友達には、あだ名で呼んでもらいたくて」
「私の名前はエレナです。だから、エレと愛称だけ書いてある貴方からのメッセージを見て、私だと勘違いする人がいるんです」
「え、そうなの?」
「バレン・タインの後これだけの方が、ピンクの髪の"エレ"は私だと勘違いして、お返しのプレゼントを持ってきました」
見せられた紙には、学年とクラスと、見たことのある名前が書いてあった。
私の所には一人も来てないんだけど?!
「こんなに?!エレナは何を貰ったの?」
「全て『それは、私ではありません』とお話しして、プレゼントはお返ししました」
「貰っちゃえば良かったのに」
「こちらから贈ってもいないのに、受け取れません」
「真面目ね、私なら全部貰ってあげるのに」
「みなさん、好意を持っていたようですよ?友達を相手にしている雰囲気ではありませんでした」
「勘違いさせちゃったのね、悪い事をしたわ」
「複数の殿方を誑かす悪女って以前噂されていたのを知っていますか?」
「悪女?そんなつもりは、なかったわ!」
やっぱり悪女になってた!私可愛いからなぁ。
勝手に男子が誑かされちゃうのよね。
「そんなつもりが無いのなら、これから気をつけて下さいね」
「分かった。あと、手紙には愛称を書かないようにする」
「分かっていただけて良かったです」
ヒロイン顔なのに、悪役令嬢になる所だった。
私が魅力的だから男性を惑わせてしまうのね。
それでも、私は諦められないの。
キラキラ輝く宝石達の為に、彼女に私の思いを話す。
「私は人脈が欲しいの!私の容姿で誑かさないように男性と友達になるのって難しいのよね」
「何の為に人脈が欲しいのですか?」
「私、宝石がついたアクセサリーを貴族の間で広めたいのよ。だから、買ってくれそうな貴族令息に売り込みをしていたの」
「アクセサリーを身につけるのは、誰ですか?」
「女性でしょ?」
「何故男性に売り込むのですか?」
「女性に贈るのは、男性だから?」
「それが間違いです。男性に売り込んでも、その商品は広まりませんよ」
「じ、じゃあ、どおすればいのよ!」
私の叫びを聞いて、エレナは周囲を見渡した。
何が探しているのかな?
「エレーナ様が身につけている、ネックレスとブローチ。それが貴方が広めたい商品ですか?」
「そうなの!ネックレスに宝石がついていて綺麗でしょ?守護石じゃないんだけど、正規の宝石だから、これは少し高いの。守護石の半分くらいの価格だよ」
「でも、それだけの価値があるんですね」
「そうね、あと守護石をアクセサリーに加工したい場合は、シェリーズ宝石店で守護石を買ってもらった時に、予約注文できるの」
「ブローチは?」
「正規の宝石を作る時に出た欠片石を使っているから、ブローチは私のお小遣いを二ヶ月分貯めれば買えるかな」
金額は、物によって違うので価格は正直覚えていなかった。
だから、イシュトから金額を聞いた時、私が思った事を伝えた。
ブローチなら、タインスイートに行くのを二カ月我慢すれば買えると思ったんだよね。
「その二つ、私に少し貸してくださる?」
「いいけど?」
私が渡したアクセサリーを身に付けて、彼女はとても綺麗に笑った。
同じ顔のはずなのに、宝石を身に付けた彼女は、私よりずっと大人びて見えた。




