10.パワーストーンの事だと思ってた
「ねえ、何で今日休んだのよ」
眠そうな顔をして、男子寮から出てきたイシュトに、まず文句を言った。
教室に居てくれれば、ここまで来る必要なかったのに。
「アクセサリーの注文が入ったから」
「そうなの?!」
「守護石をアクセサリーにして持ちたいって」
アクセサリーに興味を持ってもらえたのは嬉しいけど、お店にも置いてあるのに、注文が来たと聞いて驚いた。
「店に置いてあるのじゃダメなの?」
「あれは守護石じゃない、ただの宝石だ」
「え、何か違うの?」
「エレーナ、知らなかったのか?守護石は加護が付与されているんだぞ」
「加護?!」
知らなかった、思わず首から下げている守護石の袋を触る。
守護石って、パワーストーンの事だと思ってた。
だから、この国の貴族は宝石をお守りにしている、くらいに軽く考えていた。
これに加護が付与されていたの?
「お前の所で加工した宝石を、隣国に持って行って加護を付与してもらうんだ。だから輸送費込みで普通の宝石の倍以上の値段になる」
「倍以上?!そんなに高いの?」
「隣国に、流れ星の加護を付与する村の専属商会があって、そこと叔父さんが契約しているんだ。報酬はしっかり支払わないと、契約打ち切られちまうからな」
「その加護には、どんな効果があるの?」
「一度だけ、命の危機を石が肩代わりしてくれるんだ」
「え、何それすごい!」
「伝染病や奇病から救われたとか、災害時に助かった人の多くは、守護石を持っていたんだ。役目を終えると石は割れるから、身代わり石と呼ばれる事もある」
「そんなすごい物売ってたんだね」
「高価だから、この国では王族や裕福な貴族しか持てないけどな。隣国では、平民でも買えるクズ石に加護を付与した物も売られているらしい」
「え、うちでもそれ取り扱えないの?」
「今の契約じゃ無理だな。毎年取り引き出来る数が決められているから」
「そうなんだ?」
「隣国は、自国の貴族用の守護石を作る為の宝石が欲しいんだ。それを男爵家で加工して優先的に商会に売る代わりに、加護を付与した石をこっちに売ってもらってるんだ」
「つまり、もっと守護石仕入れたいなら、こっちから加工済みの宝石を大量に持ち込まないといけないって事?」
「そうだな、でも加護を付与できる人も限られているから、あまり無茶な数は頼めない」
「難しいねぇ」
「だから、守護石をアクセサリーにするのは、店頭販売じやなくて注文販売にしたんだ」
「なるほど」
「守護石をシェリーズ宝石店で買ってもらって、アクセサリーに加工したい場合は、その場でうちの工房に予約してもらう。石のサイズは店員が把握しているから、こっちもやりやすいしな」
私は物心ついた時から守護石を持っていたから、そんな貴重な物だなんて知らなかった。
そんなに大事な物なら、袋に入れて持ち歩くのも分かるかも。
「店頭に置いてあるアクセサリーは売れてる?」
「あまり売れていないみたいだな。貴族の間では宝石は加護があるのが普通だから、いくら綺麗でも加護がない宝石を買う気にはならないみたいだ」
「商売って難しいね」
「叔父さんの苦労が分かっただろ?」
「隣国と商談できるなんて、お父さんは、やり手の商売人だったのね」
「だな、ちゃんと王家にも納品してるしな」
「そうなの?なら、何であまり儲けがないのかな?」
「儲けが出たら、叔父さんは職人に還元してくれるからな。だから工房を辞める人は、ほとんど居ないだろ」
アズロニア男爵家は、まさかのホワイト企業だった。
私も職人さん達の為に頑張らないと!
「やっぱり売り込みが必要ね、宝石の良さは加護の力だけじゃないわ」
「今、正規の宝石を作る時に出た、宝石の欠片を使ってアクセサリーを試作しているんだ。それが出来ればもう少し低価格で販売できるかもしれない」
「それなら、試作品ができたら貸してくれる?学園で友達に商品紹介してみるから」
「あまりやりすぎるなよ、友達無くすぞ」
「上手くやるわ」
前世はアクセサリー店の販売員だったんだから!
キラキラ輝く宝石付きのアクセサリーを広める夢は、諦めないわ。
「そろそろ、依頼品の作成に戻っていいか?」
「あ、忘れる所だった。イシュト、ハッピーバレンタイン!いつもありがとう。チョコレート貰ってくれる?」
「!!……ありがとう」
イシュトは一瞬驚いた顔をして、口元を右手で隠しながらチョコレートの包みを受け取った。
「どうしたの?」
「貰えると思わなかった」
「そう?イシュトには、いつもお世話になってるからね」
「そうか、じゃあまたな」
そう言って、彼は慌てて寮に戻って行った。
私の願いを叶えてくれた彼の為にも、宝石付きのアクセサリーを売り込むぞ!




