僕はルービックキューブ部に仮入部した
~ 夏の兼六園 ~
ここはルービックキューブ部の体験説明会の会場、物理教室。
さっきまでたくさんの人でごった返していたのが嘘のようだ。
今はアオイさんとモモカさんと僕の三人だけ。
アオイ
「ありがとう」
アオイさんに急に話し掛けられ、どきっとした。
僕
「いや。どうも」
アオイ
「モテモテ、なりたい?」
アオイさんが首を少し傾げた。
アオイさんのロングヘアーがさらさらと落ちる。
僕
「だから違います!」
アオイさんの仕草に、僕はドキドキしながら答えた。
アオイ
「うふふ。ありがとう。
部になる、五名必要。
あと二名。
説明会、あと二日。
あと二日、あと二名。
それが、一番不安。
私、モモ、不安」
アオイさんの話し方は特徴的だ。
帰国子女だろうか。
僕
「あの、二人とも一年生なんですね」
アオイ
「そう」
僕
「びっくりしました。
てっきり上級生だとぱかり・・・。
入学していきなり部を作るなんて、すごいですね」
アオイ
「うふふ。
私、モモ、『夏の兼六園』、出場したい。
団体戦、個人戦、ある。
団体戦、五人、必要。
ルービックキューブ部、作りたい。
先生、作り方、教えてくれた。
ルービックキューブ部、五人、必要」
僕
「団体戦って、あるんですね」
モモカ
「そうよ」
モモカさんは机のキューブを手に取った。
さっきまでアオイさんが使っていたキューブだ。
モモカ
「団体戦では五種目で勝敗を決めるの。
まず、このルービックキューブね。
3x3(さんかけるさん)って言って、これが一般的ね。
ルービックキューブと言えば、みんなこの 3x3 を思い浮かべると思うわ。
あと 2x2(にかけるに)、4x4(よんかけるよん)、目隠しの 3x3、片手の 3x3。
この五種目よ」
僕
「目隠し!?」
モモカ
「勝敗はタイムアタック。要は、速く揃た方が勝ち。
五人が一回ずつやって、一番速い人と一番遅い人を除いた三人の平均が記録になるの。
この記録を対戦相手と比較して、勝敗を決めるの」
僕
「目隠しって?」
モモカ
「・・・あなた、人の話を聞いていないわね。
そうよ、目隠しよ。
ルービックキューブの配置を全部覚えて、見ないで揃えるの。
普通は解き始めてからの時間を測るんだけど、目隠しの場合は違うわ。
配置を覚える時間もタイムの中に入るの。
だから、速く揃えるだけじゃなくて速く覚えることも重要ね」
僕
「そんなことができる人間がいるんですね・・・」
モモカ
「何を言っているのーっ」
肩を平手でバシバシ叩かれた。
モモカ
「もちろん、あなたにもできるようになってもらうわよ。
団体戦に出場する人は、全部の種目ができるようになってもらわないとね」
僕
「・・・え?
全部の種目ができるようにって、どういう意味ですか?」
モモカ
「言葉通りよ。
3x3、2x2、4x4、3x3 目隠し、3x3 片手。
この五種目全てで六面揃えられるようになってもらいます、という意味よ」
マジか?!
目隠しも、片手も、2x2も、4x4も?
・・・それって、滅茶苦茶ハードル高くないか?
やっぱり、やめようかな・・・。
モモカさんがすごい笑顔でにらんでいる。
愛想笑いするしかなかった。
・・・やっぱりやめます、って言える雰囲気じゃないな、これ。
アオイ
「大丈夫? 痛い?」
アオイさんが肩をさすってくれた。
振り向いたらアオイさんの顔が超至近距離。
僕はびっくりしすぎて飛びのいてしまった。
僕
「だ、大丈夫です!」
び、びっくりした・・・。
アオイさんの手の感触が肩に残っている。
もったいないことをしてしまった。
どうして僕は飛びのいてしまったのだろう・・・。
モモカ
「さあ、今からふり返りをしましょう」
え? ふり返りって?
モモカ
「今日、やったことをふり返るの。
今日と同じことを明日もやったら、明日も今日と同じ結果になるわ。
それは、困るの・・・。
夢に少しでも近づくために・・・」
夢?
夢か・・・。
モモカ
「新入り君、あなたも見学者としての意見を聞かせてね」
新入り君?
僕
「僕、サトルと言います。
よろしくお願いします」
モモカ
「サトルくんね。
よろしくね」
そう言ってモモカさんは、すっと右手を出した。
え? 握手?
女子から握手を求められたことなんて無いから、焦った。
僕はモモカさんと握手した。
アオイ
「よろしく」
アオイさんも右手を出した。
僕はドキドキしながら、アオイさんの手を軽く握った。
アオイさんの手はとても細くて、少しひんやりとした感じがした。