九 神Aがいうには
本日は我々神々の集会
数多くいる神々がそろうのは、第一世代の元老院の方々が招集した場合のみ
未だ新参の俺は元老院の方々が招集をかけた集会への参加は今回が初めてである
『皆の者よくぞ集まってくれた...』
今お言葉を話されているのが元老院の方なのだろうか
集会の司会は招集をかけた神がやると師匠がいっていたし...
しかし、元老院の方々は何を仰る気だろうか
しかし、強いな、俺では逆立ちしてもかなわないだろう
そんなくだらないことを特に警戒もせず、ぼんやりと考えていたのだが、急に悪寒がした
ドン
そんな音が聞こえてきそうな圧倒的な圧
一瞬でいくつもの死の幻視をするほどに巨大な何か
既に顔面は蒼白、冷汗が止まらない
視界の端に映る元老院の方々がすぐさま平伏する姿が見えた
その光景を見ていたらしい他の神の動揺が波紋の様に拡がるのを肌で感じる
あぁ、死ぬ
それは確信にも近い何か
コツ、コツ、コツ、コツ
それは突然聞こえた、余りにも場違いな靴の音
軽い音からして少なくとも自分よりは小柄であろうことが推測される
この元老院の方々すら平伏する圧の中、ゆったりとした足取りのその人物
思い当たるのはただ一人
この状況の元凶
不意に足音が止まり、先程より圧が弱まった所で先程の元老院の一人が声を上げる
『ようこそおいでくださいました、姫神様』
『して、何用でしょうか』
その言葉に神々に緊張が走る
あの、姫神だと⁉
周囲の神々がその姿を見ようと必死に顔を上げ始める
それに乗じて自分も顔を上げると絶句した
そこには、黒を基調としたゴシックドレスを身に纏った玉座に座る少女がいた
美しいプラチナブロンドの髪に紅と蒼のオッドアイをもった少女の姿は自分如きが言葉にしていいものではないと思わせるほど美しかった
神々は基本美形だが少女は格が違う
少女の美しさに失神する者もちらほらいるが馬鹿にする気にはなれない
『なに、少し要があってな』
『はて、要とは?』
『お前の所の黒猫を貰い受けようかと思ってな』
『黒猫、ですか』
『あぁ』
『しかし、それは』
『うん?何か問題があるのか』
先程まで弱まっていた圧が一気に増す
終始無表情だった少女が口角を少し上げた瞬間にだ
姿を見てから、彼女が本当にあの恐ろしい圧を出していたのかと疑いたくなったが、そんな考えをしていた事をすぐに後悔することとなった
あの微笑みを見て理解した
否、理解させられた
あの圧を発していたのは彼女だと
神々の頂点はあの少女であると
これこそが頂点
これこそが最強
これこそが圧倒的強者
そう理解させられた
あぁ、敵わない
そう思うには十分な状況だった
元老院の方々と並べば或いはと
自分が頂点に立てるのではないかと
そう漠然と思っていた
その自分の考えが浅はかだったと認めざるを得ない
心の何処かで思ってたのだ
なぜ元老院の方々は姫神に挑まないのかと
あれは、無理だ
強くなればなるほど感じるのだろう
決して埋まらない差を
『っ、いえ、何も』
『そうか、ならいい』
『以上でしょうか』
『あぁ、邪魔したな』
『いえ、とんでもございません』
『そうだ、黒猫の支配地は此方が貰い受ける、そのつもりで』
『御意』
『ではな』
そうして彼女は去っていった
大きすぎる爪痕を残して