01.これがまともだった最後の朝だったのだが
俺たちが高校に入学して1ヶ月が経った。
その日も俺はクラスメイトで幼馴染みの唐橋 楓といつも通りの電車に乗り、学校へ向かう。
え? お前は誰だって?
ああ、言ってなかったな。
俺は片倉 弥代。どこにでもはいない、と思うけど、高校一年生だ。
そろそろ見慣れてきた校門を抜け、昇降口でスリッパに履き替える。
中学生の頃は上靴だったせいで始めは違和感があったが、そろそろ足も慣れてきた。
俺も高校生になったんだなぁ、と感慨深い気分になる。
「それならもっと高校生らしくしなさいよ」
楓が突然呟く。
俺の心を読んだかのようなタイミング。というか、読んだんだろうな。
「らしく、ってなんだよ」
俺が聞くと、楓は答える。
「ずばり、青春よ! アンタも高校生らしく甘酸っぱい恋を経験してみたら?」
それはお前も微妙だろ。
それに––––––
––––––いや、これは言うだけ無駄か。
俺は溜息を吐いた。
「生憎、女子の知り合いは少なくてな」
例外はいるにしろ。
「あら、私も女子の知り合いよね?」
「その言い方は告白してる、って受け取っていいのか?」
「まさか。ちょっとからかっただけよ」
楓は笑う。
「正直言うと、こんなお前が副室長を務めている、ってのが未だに信じられん」
「あら、私が生徒会長だった時はそんな事言わなかったじゃない」
そう。こう見えてもコイツはわかりやすい優等生だった(過去形)、オカタイ感じの。
小学校の頃は少なくとも俺が引っ越してきてからは毎年学級委員をやっていた。中学に入ったら、学級委員、生徒会副会長、会長、と階段を駆け上がり、この高校も推薦で受かった。
成績も優秀で学年300人の中で一桁を毎回取っていたな。
え? お前はどうなんだって?
学校の順位は30ぐらい。
高校には内申が40あった事もあって一般合格。入試の順位は320人中180位ぐらいじゃないかな。
「高校デビュー、って言うんだっけ? だいぶ雰囲気変わったじゃん。なんかじぇーけー、って感じ」
「それは褒めているのかしら?」
「オカタイ雰囲気が消えて、気楽に話せるようになったんじゃない?」
「弥代に対しては何も変わってないわよ」
俺に対しては、出会った時からこんな感じだった。
「だから、誰に対してもこんな対応になったって事に驚いているんだよ。……変なおじさんに話しかけられたら無視しろよ?」
こいつなら大丈夫だと思うけど。
「ぷっ」
ボソリと呟いた俺のセリフに楓は過剰に反応した。
「あはははは!」
「そんなに面白いかよ……」
俺は溜息を吐いて、階段へと歩き出した。