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博士の愛した研究  作者: 鳥路
序章:人造生霊との邂逅
2/16

2:第三白箱研究所の博士

かつて、彼女が夢を抱いた日から十年という時が立っていた

十年という時は非常に残酷であり、人を変えるのには十分な年月である


「ふわぁ・・・」


そんな十年の五分の一・・・二年間を布団から出ずに彼女は過ごした

理由は単純。起きるのが億劫であるから

布団の中で彼女は蹲る

今日もまた寝て過ごすために

しかし、それは彼らが許さない


「起きろください、十六夜いざよい博士」


起床すべき時間になったのだろう

少年はまた無断で部屋に入り込んで、彼女を起こそうと布団を揺らす


「・・・あと六十年は起こすな」

「死ぬまで寝ていたいんですか」

「・・・ああ」

「今日は三国みくにさんから確実に起こして来いって言われているので、意地でも起こします」

「無理でしたって言って研究室に戻れ」

「諦めませんよ。今日は十六夜博士が二年ぶりに研究発表を行うと聞いています」


彼が普段起こしに来るのは健康上のことを心配してだったが今回は違う


「あー・・・面倒くさいな。三国に押し付けろ」

「貴方の代わりなんて、誰にも務まりませんよ」

「三国がいるだろー・・・浩二こうじは大人しく研究してろって。君が代わりなのは許さない」

「頼まれたって嫌ですよ。それに貴方の研究を三国さんが発表したって誰も喜びません」

「僕は喜ぶが」

「ああもう!貴方の研究を、貴方の口から発表されることを待つ方々が待っているんです!期待を裏切らず、起きてください!」

「あっそ・・・寝る。資料は机の上だ。三国に取りに来させればいい」

「反応薄い!?全く、皆さんの期待を裏切る気ですか!」

「そんなもんどうでもいいわ」

「それと、俺のクビがかかってるんです!起こせなければ、退職だと・・・・」

「その無駄なことをしている暇があるのなら大人しく切り落とせばいいんじゃないか」

「そっちの首じゃないですから!起きてください!」


朝から騒がしい男だと彼女・・・「十六夜一月いざよいいつき」はしみじみと感じた

一月は枕元から耳栓を取り出し、耳に入れ込む

そして再び布団をかぶる


「僕を起こす前に神に懺悔してきた方がいいのではないかー。あまりにも罪深いぞ、浩二」

「そうだね、一月。君が、だけれど」

「三国さん!」


彼の声が一人の青年がやってきたことで収まる

一月は嫌な予感を察して耳栓を取り出し、布団から顔を覗かせた


四十万浩二しじまこうじ・・・立派な大人が男に泣きつくなんて見苦しいにもほどがあるぞ」

「貴方が起きてくれないからじゃないですか!」


先程まで一月を起こそうとしていた彼・・・「四十万浩二」は部屋にやって来た男に半泣き状態で泣きついている

しかし一月の目線は、浩二が抱き着いている男に向けられていた


「・・・三国」

そこには胡散臭い笑みを浮かべている制服姿の男・・・「三国みくに」が立っていた


「おはよう一月。二年ぶりだね、生きてたんだ」

「おはよう三国。二年ぶりだな。生きてたんだな」


互いに二年ぶりの再会を喜ばず、互いに相手を睨み沈黙を続ける

それを浩二はどうしたものかと見つめ、三国の指示を待った

三国はそれに気が付き彼に指示を一つ与える


「浩二、君は車椅子を」

「はい!」


浩二が一月の研究室から勢いよく出ていく

それを三国は見送った後、すぐに一月に振り向いた


「一月」

「断る」

「じゃあ死ね」

「さりげなく毒薬を布団にかけるな」


一月は二度と使えなくなった布団をはぎ取り、三国と対面する

ベッドサイドに細くなった足を垂らす


十年前、一月は脚の機能を失っていた

正確に言うと、足の膝から下が動かないのだ

浩二が車椅子を持ってくるまで、自力で移動することすらできない


それに不便さを覚えた彼女は十年前に脚の機能を一時的に取り戻す機械を作り上げた

しかし、当時の彼女はまだ六歳である

まだまだ成長の可能性を秘めた幼い少女は、その機械を作り上げたと同時にある事を思う

成長に合わせて作り直すのが面倒だな、と


それから半年後、彼女は急成長を遂げ、機械が使用できなくなった

それからは車椅子を使用して移動をしていた

もちろん、それを押していたのは三国である

本人は酷く嫌がったが、周りの大人の命令には逆らえず渋々押していた


それから十四歳の時に自分の成長期が止まったことを悟った彼女は再び同じものを、今度は今の脚に合わせて作り上げた

それを目の前で着用してもいいのだが、面倒なのでそのままにしておく

無気力な彼女が選ぶのはいつだって、楽な道だ


彼女的には、研究に専念してほしい浩二と自身にとってある意味天敵な三国に介護されたくない

もっと優しく、移動から何でも献身的に介護してくれるような存在が欲しい

例えば、そう

十年前、自身に夢を与えてくれた青年のような食事は美味く、慈愛に満ちた母のような青年ならば喜んで介護されたいものだと思っている


「一月、君さ」

「なんだよ」


三国が一月に歩み寄り、怪訝そうな顔で彼女を見た


「・・・風呂、入ってる?」

「二年前に入ってから記憶がないな」

「汚っ」


三国が早足で後ろに下がる

それを見た一月は笑いを堪えるのに必死だが、それでも一つ言っておかないといけないことがある


「それでも、臭くはないだろう」

「まあ、臭いはしないかも・・・むしろ部屋の方が臭いし」

「主に油だな」


「てっきりごみをため込んでいるのかと思って馬鹿にしに来たのに」

「残念だったな。目に見えるごみは浩二がすべて掃除して捨ててくれている」

「そこまでしてくれている人の頼みぐらい少しは聞いてあげたら?」

「彼の研究所入りの推薦状を書いてやったってだけで釣はまだもらえると思うが」

「推薦状の件で都合のいい人間になり下がったな、四十万浩二・・・」


三国は不満そうに頭を抱えた

一月、三国、浩二が所属している「白箱第三研究所」

そこは、それなりの功績をあげて研究所に属する人間の過半数から許可されれば職員として勤務することが可能だ


そしてもう一つ

「博士」と呼ばれる研究者たちをまとめる人間の推薦があれば、上層部の審問さえ通れば過半数の承認がなくても職員になることができる

一月は浩二から呼ばれていた通り、この白箱第三研究所で「博士」として勤務している

浩二は一月の推薦でこの白箱第三研究所に籍を置けるようになったのだ


もちろん、推薦した博士が責任をもってその人物を指導することが条件となるが・・・

浩二の専門はどちらかといえば一月より三国の方が学べる要素が多い

浩二の研究所入りが決まった瞬間に、上層部に進言して三国に全部押し付けたのは記憶に新しいことだ


「浩二は今、何をしているんだ?」

「いつも通り汚染土壌の浄化だよ。半分以上の数値を叩き出せるようになった」

「へえ・・・凄いじゃないか」


一月の個人的な事情だが、彼女は浩二の研究に一目置いていた

一月の専門は「生物学」と「機械工学」となる

この世界を崩壊させた「パージ鉱石」と「生霊」の研究の方に注力はしているものの、専門はその二つとなる


一方、浩二の専門は「植物学」である

自分の専門外の彼の研究は、様々な可能性を生み出す研究だった

そして一月の願いを叶えるために、一番近い存在でもあった

浩二の願いは草花が枯れたこの世界に、もう一度植物を群生させたいというものだった

そして今や高級品である野菜や果物の大量生産

それらは、この世界を豊かにする可能性を秘めていた

それの達成を目指して、土壌の汚染を浄化する方法を模索している浩二は最初個人的に研究を行っていた


彼に最初に出会ったのは三国だった

その研究内容を聞いて彼の研究は、個人で行うのには無理があると考えた三国は浩二を研究所に来ないかと誘った

研究所に入れば、金銭面はもちろん最新鋭の設備や無数の書物の閲覧権を得られるからだ

浩二は誘いに乗り、それから三国は彼の推薦状を書き・・・上層部から九回も書類で落とされている

浩二の人格が悪いとか、そう言う問題ではなく「三国が書いた」という事実が気に食わなかった上層部のせいで浩二はなかなか研究所に入ることができなかった


そして三国は一月の力を借りることになる

浩二にあってから彼の研究を聞き、彼女もまた個人でやるのは無理があると判断した

彼女が書いたものは一発で通った

そして一月に三国の件を尋問されつつ、上層部は審問を行い・・・浩二はこの研究所の職員となった経緯がある


それをきっかけに、三国と浩二は一月に恩を作ってしまった

旧知の仲で恩のやり取りをしている三国はともかく、浩二は一月に頭が上がらなくなった


「誉めるくらいなら、浩二に君の世話の時間と労力を割かせないであげなよ」

「僕は帰れと言っている。しかし奴が帰らないんだ」

「そう言われると反応に困るな・・・」


三国の小言を適当に聞き流しながら一月は立つために両足に力を籠める

しかし、その足はもちろん彼女の身体を支えることはできない

以前は歩けないが立つことだけは出来たのにと彼女は思いつつ、受け身の態勢を取るが彼女の身体はいつまで経っても床に向かうことはなかった


「危ないな」

「すまない、三国」


一月を素早く支えた三国は一月の頭を鷲掴みする


「それに髪もばさばさ過ぎるでしょ」

「洗ってないからな」

「きたない、ばっちい、ふけつ!」

「はは、先に風呂に入ってくる」

「自分一人じゃ入れないのに、どうするのさ」


「・・・」


いわれてみれば、そうだなと一月は思う

この足では一人で風呂に入ることはできない

それを見た三国は溜息を大きく吐き、一月を抱え上げた


「洗ってあげるから、黙って運ばれてくれる?」

「頼んでないのだが」

「やらせろ」

「へーい・・・」


一月は抵抗を諦めて、三国の腋に抱えられて自身の研究室にに併設している風呂場へと連行されていった

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