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7話・虚無

 隣国から戻ってからは鍛錬場で鍛えたり、ヴァーロートのお供で国内を回ったりした。現在の俺の立場は『皇子の護衛兼話相手』となっている。給金も出るが、衣食住のすべてを世話してもらっている。


 つまり、金の使い道がない。


 女は何かと物入りだよなと思い立ち、療養中の異世界人の女のところへ立ち寄る。女の名は『サキ』。最近ようやく教えてもらった。



「もう動いて大丈夫なのか」


「……ずっと寝てばかりいられないし」



 サキは世話になっている使用人の女性寮で掃除洗濯などの雑務を手伝っていた。ただ世話になっているのが心苦しいのかもしれない。自分から申し出て働き始めたんだとか。


 借り物の服に汚れた前掛け、長い髪は後ろで適当にくくっている。染めていた部分はもう毛先しか残っていない。ほぼ黒髪に戻っていた。


 保護されてすぐの時は痣や怪我が目立っていたが、今はもうすっかり治っている。ただ、あの時より少し痩せたような気がした。わざと大きめの服を着て体型を隠しているからそういう印象を受けるのかもしれない。まくった袖から見える腕が細い。



「これ、少ないけど」



 金の入った布袋を渡そうとすると、サキはビクッと体を揺らし、ジリジリと後退した。脂汗をかいて、青褪めた表情でこちらを見上げている。


 なにか誤解させたかもしれない。



「……あ、違うぞ! これは見舞い金だ。だから遠慮なく受け取ってくれ」


「え、でも、そんな」



 遠慮するサキの手に無理やり布袋を握らせ、その場から足早に立ち去る。


 そうだ、サキは転移してからずっと酷い扱いを受けてきた。他人を信じられず、厚意を素直に受け取ることが出来ない。だから保護されたままの状況を良しとせず、流産後の体で無理して働き始めた。


 そして、さっきは恐らく俺に金で買われると勘違いした。


 同じ異世界人だからと勝手に仲間意識を抱いていたが、俺は赤の他人で、しかも男だ。彼女にとって、男はみんな自分に危害を加える獣と同じ。


 気の毒に、と本心から思った。






「マサルに見せたいものがある」



 この日ヴァーロートのお供で連れてこられたのは、檻に改造された元兵舎だった。目の前の大きな檻にはまだ魔獣化していない肉食の獣が数匹閉じ込められている。


 ヴァーロートが合図をすると、兵士がその檻の上から生きた囚人を突き落とした。後ろ手に縛られた中年の男だ。



「お、おい。なにを──」


「黙って見ていろ」



 檻に落とされた男は必死に逃げようとするが、飢えた獣に噛み付かれ、肉を食い千切られ、ものの数分で食い尽くされてしまった。辺りには血や肉片が飛び散って悲惨な状態だが、何故か目がそらせなかった。


 変化はすぐに起きた。


 男を食った獣の体がボコボコと盛り上がり、ひとまわり大きくなった。体毛が黒く染まり、額には小さな角が生えてきた。



「これは……」


「魔獣化だ」



 獣の魔獣化。ヴァーロートがずっと探し求めていた魔獣を増やす方法。


 生きた人間を獣に食わせる。それだけ。



「獣のエサになるような肉を調達するのも手間と金が掛かる。それで、あの女に手を出した男どもの処刑ついでに食わせてみたらこうなったのだ」



 普段の俺なら「残酷な真似はやめろ」とヴァーロートを止めただろう。だが、サキが未だに男に対して恐怖を抱き、怯えて暮らしていると知った今、止める気持ちは一切ない。ざまあみろとしか思わない。



「これで魔獣を増やす方法が分かった。思い通りに動かすことは難しかろうが、コレを放つだけで敵陣を混乱させる事ができる。戦争で優位に立てるぞ」


「そう、だな……」



 虚しい。


 どれだけ男どもが食われても、サキの心と体の傷が無かった事にはならない。戦争に勝っても、俺は元の世界に戻れるわけじゃない。


 ただ残りの時間を無為に生きるだけ。


 この日から金の使い道に酒が加わった。

次回、第8話『事変』

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