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4話:相違

*注意*


直接的な表現はしていませんが

性暴力被害の話が少しだけあります

苦手な方は読むのを避けてください

「兄上様、そちらが異世界人のマサル殿ですか」

 

 

 鍛錬場で複数の兵士を相手に模擬戦をしている最中、観覧席の方から知らない声が聞こえた。全員起き上がれなくなるまで叩きのめした後、顔を上げてそちらを見る。


 ヴァーロートの隣に立っていたのは赤毛の青年だった。上質そうな衣服を身に纏い、背後に護衛を付けている。身分が高いのはすぐ分かった。



「話には聞いていましたが、本当に強いのですね! 十人を相手に完勝するとは!」


「まあな。軍でマサルに勝てる者はそうおらんだろうよ」



 なんでおまえが自慢気なんだ。


 控えていた兵士に模擬戦用の木刀を返し、布で汗を拭う。ちらりと倒した相手を見たが、しばらくは意識を取り戻しそうにない。やり過ぎたか。いや、正規兵の癖に弱いのが悪い。



「マサル。会うのは初めてだったな。こいつは俺の弟のヴィエーストだ」


「会えて嬉しいです、マサル殿」


「……どうも」



 ヴァーロートの弟ということは、この国の第二皇子か。噂を聞いて、わざわさ俺を見に来たか。まるで見世物だな。


 それにしても、この二人、顔は似てるが性格は全く違う。ヴァーロートはツリ目の暴君タイプだが、ヴィエーストはおっとりした好青年タイプ。こんな俺にも丁寧に接してくれている。性格は良さそうだ。



「それでな、ヴィエーストがおまえに頼みがあるそうだ。聞いてやれ」


「はあ」


「申し訳ない。実は今度隣国に訪問するのですが、マサル殿に私の護衛を頼みたいのです」


「はあ?」



 なんで俺が。ていうか、今も周りにたくさん護衛がいるじゃないか。人手不足とは思えない。そいつらを連れていけよ。



「あちらの国は非常に友好的で、あまりたくさん護衛を連れて行くのは憚られるのです。その点、マサル殿は一人で十人を打ち倒す程の手練れ。護衛の数を抑えられると思いまして」


「そういうわけだ。付き合ってやれ」



 ヴァーロートにそう言われては断れない。


 今の俺は、衣食住の全てをヤツに頼っている。それに、先日の女の世話も任せている。男を見ると怯えて動けなくなってしまうので、使用人の女性寮に置いてもらっているのだ。多少はワガママを聞いてやるべきだろう。



「……わかった」


「ありがとう! 助かりますマサル殿!」



 笑顔で感謝するヴィエースト。本当に皇子かっていうくらい人が()い。兄がアレだから違いが際立つだけか。



「貸すだけだからな、ヴィエースト」


「分かっております兄上様」



 人を玩具のように貸し借りするな。






 行き先は平和で美しい王国らしい。国土の南側は海に面していて、魚介料理が美味いんだとか。帝都は海から遠いから魚料理は滅多に出ない。少し興味が湧いた。



「父上様が何度も喧嘩を吹っ掛けるのですが、あちらの国王はのらりくらりと躱しておりまして。私としても、せっかく友好的な国なのですから戦争などしなくてもと思うのですけどね」



 道中、馬車の中でヴィエーストはそうボヤいた。父親である皇帝は考え無しに他国に喧嘩を仕掛ける戦争狂だとは聞いている。それで、何故第二皇子が出向くのか。



「実は、政略結婚を持ち掛けて怒らせよ、という父上様からの命令なのです。あちらには王子と姫がおりまして、国王は姫をとても可愛がっているとのこと。帝国に嫁がせるよう言えば、温厚な国王でも怒るのではないか、と……」


「なんだそりゃ。ていうか、おまえはそれでいいのか」


「父上様の指示は絶対ですから」」


「もし向こうが反対しなけりゃ結婚相手が決まるんだぞ。それに、王族同士の政略結婚ならヴァーロートがやるべきなんじゃないのか?」


「兄上様には既に婚約者がおりますし、なにより異国の女は嫌だ、と。かの国の王族はみな白髪(はくはつ)だそうで、それも嫌だと言っておりました」



 おまえも赤毛だろうが。わがまま言うな。


 ヴィエーストは穏やかで優し過ぎる。帝国では生き辛い人間なのかもしれない。



「マサル殿は、あの女性と結婚しているのですか」


「してねぇよ」


「あれ。懐妊していると聞いたのですが」


「……ヴァーロートが保護した時にはもう身籠ってたんだよ」


「……ああ、なるほど」



 『あの女性』というのは、少し前にヴァーロートが見つけてきた異世界人の女だ。


 田舎の農村で囲われ、男達の性欲処理に使われていたところを保護して連れてきたと言っていた。周りも本人も気付いていなかったが、対面した時には既に妊娠していたらしい。まあ、避妊もせずに何度もやられればそうなる。村の男達は一人残らず捕まえ、そのうち適当な罪状をつけて処刑するんだとか。



「我が国のことながら本当に惨いことを。マサル殿の同郷の女性に取り返しのつかないことをしてしまいました。申し訳ありません」



 ヴィエーストは俺に頭を下げて謝罪した。本心から詫びているようだ。皇子が軽々しく頭を下げるもんじゃない。もし誰かに見られたら俺が怒られるだろうが。



「おまえが悪いわけじゃない。ていうか、異世界人じゃなくても、女が酷い目にあって良いわけないだろ」


「そう、ですよね」


「戦争ばっかやってないで平和になりゃあ、地方の治安も少しはマシになるんじゃないか」


「……その通りです。本当に」



 ガラにもなく説教じみたことを言ってしまった。だが、そんな言葉でもヴィエーストの心には何か響いたようだった。

次回、第5話『口火』

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