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16話・懐柔

 長年の圧政に苦しんでいた帝国民はヴァーロートが起こしたクーデターを支持し、予想よりも早く新皇帝が誕生した。


 即位と同時に婚約者と結婚し、ヴァーロートは帝城の主となった。気が大きくなっていたのだろう。俺にこう持ち掛けてきた。



「マサル、おまえの働きには感謝している。なにか褒美を取らせよう。何がいい?」



 帝国軍内の前皇帝派が一掃された今、実権はほぼ握っている。将軍の肩書きに見合う権力は手に入れた。



「ならば、タラティーア姫をいただきたい」



 謁見の間。玉座に座るヴァーロートに頭を下げて願い出たのはタラティーア姫の身柄。


 これには流石にヴァーロートも即座に答えることが出来なかった。何故なら、タラティーア姫はカサンドール王国の王族唯一の生き残り。カサンドールの民は彼女が人質に取られているから帝国に従っているだけ。自由の身にするわけにはいかない。



「いくらマサルの頼みでも、それは難しいな」


「彼女を解放する必要はない。ただその体が欲しいだけだ」



 帝城から連れ出すなどといえば、せっかく得た信頼を失ってしまう。今はまだその時ではない、というか、()()()()()()()()()()()()()()


 わざと厭らしい笑みを作れば、その真意を汲み取ったヴァーロートが困ったように肩を竦めた。



「……なるほど。そういえば、おまえは最初からあの姫君を美しいと褒めていたな。確かに顔立ちは美しいと思うが、俺はやはり白髪(はくはつ)はちょっとなあ」



 相変わらず白髪に抵抗があるようだ。そうでなければ、とっくに手を付けていただろう。



「もう義理立てする必要はなくなった。当時はまだ子供だったが、そろそろ良い頃合いだと思ってな」


「はは、わかったわかった。おまえも男だということだな」



 こうして、タラティーア姫の幽閉されている西の塔への出入りの許可を得た。ヴィエーストが生きていた頃には望んでも入れなかった場所。彼の死後に自由に出入り出来るようになるとは皮肉なものだ。


 塔の入り口に兵士が数人交替で見張りをしていた。顔を見せれば、既に連絡を受けていたのか、すんなりと鍵を開けて内部に通された。中にいるのはタラティーア姫と世話係の女官の二人だけだという。階段を登り、塔の最上階にある部屋の扉を叩く。



「マサル様……?」


「お久しぶりです、タラティーア姫」



 最後に顔を合わせてから二年は経つというのに、タラティーア姫はまだ俺のことを覚えていた。それもそうか。ここに閉じ込められてからは、数えるほどしか他人に会っていないはずだ。


 長く艶やかな白髪は毛先がゆるく編まれていた。背もやや伸び、丸みを帯びて女性らしい身体つきになっている。ずっと外に出られない生活を強いられているからか肌は透き通るように白かった。


 室内に入ると、彼女は俺の腕に縋り付いた。



「マサル様。ヴィエースト様は、いつ迎えに来てくださるのでしょうか。わたくしはいつまでここで待てば良いのですか」



 か弱い声で訴えるタラティーア姫。


 もしや、ヴィエーストの死を知らない?


 振り返って世話係の女官を見れば、必死の表情でこちらを見つめている。恐らく、姫にショックを与えないように彼女が情報を遮断していたのだ。


 家族が死に、更に愛するヴィエーストが死んだとなればタラティーア姫は後を追うだろう。そうなれば、カサンドールの王族の血は絶えてしまう。カサンドールの民からすれば、それだけは絶対に避けたい事態だ。


 これは案外すんなりと事が運ぶかもしれない。



「しばらく二人きりにしてくれるか」


「それは……、……わかりました」



 女官が退室したのを確認してから、俺はタラティーア姫にゆっくりと真実を告げた。


 ヴィエーストの死とその真相。


 それを知った時、彼女は泣き崩れ、激しく取り乱した。家臣である女官がそばにいる時は王族として毅然とした態度を取るように努めていたが、今この場にはいない。


 俺は家臣でもカサンドールの民でもない。


 彼女が本音を言える相手は俺一人。



「タラティーア姫。ヴィエーストはあなたのことを最期まで気に掛けていた。あいつはあなたが後追いすることなど望んでいない」


「でも、……では、どうしたら」


「ヴィエーストはカサンドール王国の美しい風景を愛していた。カサンドールを復興させ、あの頃のような平和な国に戻そう。そうすれば、ヴィエーストも浮かばれる」


「え、ええ……ヴィエースト様のため……」







 弱った心に付け入るのは容易い。


 毎日通い、優しい言葉で少しずつ彼女の意識を塗り替えていく。他の人間との接触が出来ない中、タラティーア姫は徐々に俺の考えに染まっていった。



「王国が成り立たなければ国民は生きていられない。国を再建するためならば、カサンドールの民は喜んでその身を犠牲にするだろう。それが当たり前だ。なあ? ()()()()()()


「ええ、ええ。その通りだわ」



 洗脳が完了する頃、タラティーアは俺の子を身籠った。

次回、第17話『暗黒』


次のお話でシヴァの過去編が終わります

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