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1話:転移

番外編、始まります

 異世界に転移する奴は現実で満たされていない可哀想な人間ばかり。そんなのは傍観者の戯れ言だ。


 何故なら、俺は人生で最も幸せな時に転移してしまったのだから。





愛里(あいり)、結婚してくれ。今度指輪を買いに行こう」


「普通プロポーズって指輪渡しながらじゃない?」


「す、すまん。どれがいいのか見当もつかなくて」


「いいわよ、じゃあ一緒に選びに行きましょ」


「……あ、愛里。返事は?」


「もぉ、指輪選びに行くって言ってるじゃない! これが断りの返事に聞こえたワケ?」



 幼馴染みで学生時代から交際していた彼女に、ついに結婚を申し込んだ。指輪を買い、結婚式の日取りや式場、新居を決めて、諸々の契約をして。思ってた以上に面倒で大変だけど、二人であれこれ話しながら決めるのは楽しかった。


 そんな忙しいながらも幸せな日々の中、仕事先から自宅に帰る途中に意識を失い、目が覚めたら見知らぬ場所にいた。



「…………は?」



 見渡す限りの荒野。


 三百六十度見回しても人工物がひとつもない。さっきまで電車に乗っていたはずだ。乗り過ごして終点までいったとしても、こんな何もないところに降ろされるはずがない。


 身体を起こそうとしたら酷い頭痛と吐き気に襲われた。その場で蹲り、しばらく呼吸を整える。落ち着いてから再度辺りを見回してみたが、遠くに岩山や森があるだけで建物らしきものはなかった。


 自分の身体を確認してみる。カッターシャツにスラックス。左の薬指には婚約指輪。身に付けていた衣服はあるが、持っていたはずの手提げ鞄が見当たらない。胸ポケットに定期入れが入っているだけ。



「気を失ってる間に荷物を取られた、とかいうレベルじゃないなコレは……」



 とにかく家族か愛里に連絡を取りたかったが、公衆電話どころか電柱の一本すらない。もし連絡できたとしても、目印になるようなものが一切ないこの場所をどう説明したらいいのか分からない。


 途方に暮れていると、地平線の向こうに砂煙が上がっているのを見つけた。何かがこちらに近付いてきている。遭難者を見つけて誰かが救助に来てくれたのかもしれない。


 が、そんな淡い期待はすぐに消えた。


 砂煙は動物が走る際に巻き起こしていたものだった。あれよという間に、俺は大型犬に似た四つ足の獣三匹に囲まれてしまった。真っ黒な獣が今にも噛み付こうと迫ってくる。


 こんな何処だかわからん場所で死ねるか!


 頭痛と吐き気はもう治っている。俺は一番手前にいる獣の前脚をすくい取って横へ転がし、そのまま隣の獣の脇腹を狙って蹴り上げた。獣は僅かによろけたが、頭を低く下げて唸り始めた。



「まだやるか!!」



 ヤケクソで怒鳴り散らすと、三匹の獣はじりじりと後退して距離を取った。反撃されたのが余程ショックだったのだろう。再度襲い掛かるか、それとも逃げるか迷っているように見えた。


 その時、ピュンという風切り音と共に何かが耳元をかすめて飛んでいった。


 矢だ。


 十数本の矢が俺の後方から飛んできて、三匹の獣に次々に刺さった。目に、腹に、背中に。外れた矢は無い。驚くべき精度の射撃。


 振り返ると、いつのまにか数十人の武装した集団がいた。獣の相手に夢中になっていて気付かなかった。というか、さっき獣が後退したのは奴らがいたからか。



「たった一人、それも素手で魔獣を相手取るなど大した度胸と腕前ではないか」



 魔獣? 魔獣とはなんのことだ。


 集団が左右に割れ、中央から馬に乗った青年が現れた。こちらを見下ろすその目は冷たく、しかし、口元には笑みを浮かべている。この集団のリーダーだとすぐに分かった。



黒狼(くろおおかみ)を縛り上げよ」


「「「はっ」」」



 弓矢を受けた黒い獣達はまだ息があった。縄で手脚を縛られ、荷車に積み込まれていく。それを茫然と眺めていると、さっきの馬に乗った青年がまた話し掛けてきた。左右に立つ兵士らしき者がこちらに剣先を向けて警戒している。



「おまえ、変わった(なり)をしているな。どこの国の者だ」


「は?」



 何言ってんだ。日本だろここは。



「無礼者! 殿下の質問に答えよ!!」



 無礼も何も、お前らはそもそも誰なんだよ。


 映画の撮影現場にでも迷いこんでしまったのかと疑いたくなるような状況。だが、弓も剣も本物。馬や兵士、さっきの黒い獣も作り物ではなさそうだ。


 それはつまり、どういう事だ?



「殿下。もしや噂に聞く『異世界人』なる存在かもしれませぬ」


「ほう! それは面白そうだ」



 異世界人?


 俺が?

番外編、始まりました

基本的に重い話になります

苦手な方はご注意ください


次回、第2話『保護』

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