樹海の調査2
ある日、森の中、くまさんに、出会った。
「ッ! こんどは生きてる!」
先程死体を確認した場所からは、そう遠くない。
くまさんは4本の逞しい手足で大地を踏みしめながら、ゆっくりと近づいてくる。
気づかれたか? アリスは気の陰に身を潜めながら、剣を鞘から抜いて、くまさんの動向を警戒する。が、くまさんはアリサを素通りし、そのまま奥の方へ進んでいった。
いったん胸を撫で下ろしたが、警戒は怠らず剣を構えながら、くまさんの足取りを追跡する。
しばらくすると、また覚えのある臭いが鼻をついた。死臭だった。くまさんもそれに気づいたのだろう。同族が死んでいるという事実に、何かを危惧したのか、くまさんは歩みを止めて、来た道を引き返そうと、2本足で立って振り返る。
つぎの瞬間。
「えっ!?」
くまさんの胸から、大量の体液が吹き出し始めるではないか。体液は地面に散らばることなく一瞬にして蒸発するように消えていく。
そのままグラグラと身体を揺らして、前のめりに倒れ込んだ。その巨体は、ズシィンと周辺の木々と大地を揺らした。
「は……、は、は?」
何が起こったというのか。アリスは呆然と立ち尽くした。
完全に動きを失った、くまさんの身体は、萎れていた。そして、表情はとても安らかで、まるで眠っているかのよう……。
ここで、アリスの頭の中で、先程の死体と今の光景が重なり合った。
「あぁあ、やっぱりな」
「えっ、誰!?」
知らぬ、しゃがれた声が背後から聞こえた。アリスは咄嗟に柄に手をかけていた。
「おいおい、やめてくれよ。その剣は魔獣を狩るためのものだろ? 俺はコレでも列記とした人間様だ」
上から飛び降りるように現れたのは、小汚い痩せ型の男だった。両手を広げて無抵抗であることを示していた。アリスが柄から手を離すと、無精髭の生えた顎をさすりながらニヤニヤした。
「この辺り一帯に危険な魔獣はいないから安心しろ」
「あなたは、一体……。ひょっとして、今のもあなたが?」
「俺は公認ハンター。だが、今のを殺ったのは俺じゃない、残念ながらな」
公認ハンター。国家からその実力を認められたハンター。国家から多額の報酬や待遇を受ける代わりに、危険かつ重要な任務を任される。ハンターの、エリート中のエリートだ。アリスのような民間のハンターとは格が違う。
「でも、なんで、そんな人がここに」
「お嬢ちゃんもまだまだだねェ。こんなヤバい案件を、チームも組まずに単独行動でやらせるわけねぇだろ」
「た、確かに……それはちょっと思ってましたけど」
「まぁ、今はそれどころじゃねぇ。こっちだ」
アリスは言われるがままに公認ハンターの男の後ろをついていく。
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