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樹海の調査

 ある日、森の中、くまさんに、出会った。


「……うッ、臭うな。死んでいるのか」


 くまさんと言っても、そんなに可愛いものではない。獲物を目の前にすると毛を赤黒く発光させて、長い鉤爪を顕にする、列記とした一等級魔獣であり、その姿は如何にも獰猛そのものである。そのはずなのだが、いま目の前にいるくまさんは、穏やかな表情で眠っている。ただし、首から下は萎びているようだった。


 アリサはため息をついた。予想以上にこの任務が過酷なものであることを改めて自覚してしまったからだ。ギルド長曰く、ちょっとした調査とのことだったが、ちょっとした調査程度に、アリサのようなAランク級ハンターを寄こすわけが無かった。


 この広大な樹海の中で、いったい何が起こっているというのだろうか。


 ここ数ヶ月の間、樹海の比較的浅い地域から相次いで、くまさんなどの一等級魔獣の目撃情報がギルドに寄せられていた。まだレベルの低いハンターが、運悪く、くまさんに遭遇してしまい、死亡する例も後を絶たない。


 そこでギルド長から直々に、Aランクハンターらアリスたちに調査の命が下ったわけだ。


 この樹海、ひいては魔獣についても、未だ謎に包まれていることの方が圧倒的に多い。500年ほど前から存在が確認されてきた魔獣は、今や世界中に広く分布し、容姿や生活形態はさまざまである。彼らは、確実に人間の生存圏を脅かしつつあった。


 この樹海と呼ばれる地域も、かつては人間が暮らしを営んだ場所であったことを示唆するように、人工的な形の石や道など、文明の断片を垣間見ることが出来る。


「それにしても、やはり異様だな」


 既に脅威ではない、くまさんに近寄ってみると、その様子がよくわかるのだが、核の位置のドンピシャに鋭利な刃物で切り裂かれたような跡があった。肝心の核は確認できなかった。


「共食いだろうか?」 ふと思ったが、それならば死体がそのまま放置されているのは、おかしかった。なぜ共食いと思ったかといえば、確認されている限りでは、くまさんは魔獣の上位に分類されている。つまりヒエラルキーの頂点に位置するわけだから、そのくまさんがただ他殺されているという状況は、異様に思えた。


 しかし、先程述べたように、魔獣には未だ謎が多い。


 噂話に過ぎないのだが、巨大な翼を持った蜥蜴のような存在を見たという者もいるのだ。この世界には我々の想像も出来ない、とても恐ろしい魔獣が存在しているかもしれない、むしろその可能性の方が圧倒的に高いのだ。


 若くしてAランクにまで上り詰めたアリスでさえ身震いをした。


 とはいえ、同等の深度で、くまさん以外にも一等級は他に確認されていた。必ずしも未知の魔獣とは限らない、そう自分に言い聞かせるように、繰り返した。


 アリスはくまさんを一瞥すると、再び奥地へと歩みだした。




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