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第四話 私の婚約者様とすれ違う。

 こんにちは、伯爵令嬢チルダです。

 今日は動きやすい乗馬服を纏って、伯爵領にあるブラックドラゴンが眠るダンジョンへ来ています。

 番兵は立っていますが、扉をつけると魔力が籠ってドラゴンがうなされるので入り口は開けっ放しです。侯爵家の騎士団は来ていません。


 隠密の腕輪をつけた私は、堂々と番兵の前を通ってダンジョンに入る。

 本来月に一度だった間引きを魔石目当てで十日に一度にした侯爵家の騎士団のおかげで、第一層にいるのは無害なスライムだけだ。

 腕輪の効果で私が来ても逃げようとしない。踏みつけないよう避けながら、二層への階段に向かう。


 そして──


 私はブラックドラゴンが眠りながら放つ邪気から生まれた魔獣達をやり過ごして、最下層までやって来た。

 途中でいろいろ試して、何体かの魔獣は必中の羽で倒している。

 魔獣素材は単体だと強く劣化しにくいのだが、錬金術で術者の魔力を含ませると馴染んだようでも反発して弱くなる。必中の羽も一度しか使えなかった。敵を倒すと霧散してしまう。


 大量の宝物に囲まれて眠る、漆黒の巨体を見上げる。

 侯爵家の騎士団のように無数の魔獣を倒してきたわけではないので、ブラックドラゴンはうなされていないようだ。

 眠りながら脱皮をしているのか、辺りに鱗が落ちている。これらの鱗は、ときどき害意のないスライムなどが上層に持ち出してくれていた。


 ……血を取るために体を傷つけたら、絶対目を覚ますわよねえ。


 ブルードラゴンの血は激しく猛るものを鎮める効果があるので、生命力を低下させる仮死薬の材料になる。

 ブラックドラゴンの血は毒だが、薄めれば睡眠薬にもなるという。上手く魔力を含ませれば仮死薬にもなるのではないかしら。

 そう期待してきたのだけれど、これからどうしたらいいのかわからない。ドラゴンの血を諦めて隠密の腕輪で私のことを忘れさせて逃げるにしても、国内に散らばるさまざまな書類には伯爵令嬢チルダの名前が記されている。


「……あら」


 目の前でブラックドラゴンが寝返りを打つ。

 捻じれた長い首が顎の下にある逆鱗を露わにした。

 逆鱗──魔獣達の命が宿った魔晶石。魔石の数十倍、数百倍の価値があるものの、それを砕かなければ魔獣は倒せない。かけらだけでも貴重で、神具と呼ばれるほど優れた魔道具には、必ずこれが使われている。


 私は手の中に握り締めていた必中の羽を見つめ、やがて意を決して逆鱗へ向けて投げた。

 うなされて上げる鳴き声は広範囲に呪いを撒き散らすけれど、起こしたときに襲われるのは目の前にいる私だけだ。

 ……でも。できたら一撃で倒せますように。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 倒せました。


 必中の羽はブラックドラゴンの逆鱗を貫いて粉々にした。

 逆鱗に籠っていた魔力が逆流したのか、ドラゴンの体はそのままの見た目で魔石化した。

 もし侯爵家の騎士団が最下層に来たとしても、今もブラックドラゴンが眠っているだけだと思うだろう。


 宝物を物色する。

 ブラックドラゴンが起きているときにどこかから奪って来たものだが、ドラゴンが起きていたのはもう数百年も昔のことだ。持ち主は亡くなっている。

 それに、ドラゴンの存在は魔石という利益を生み出した半面、近隣貴族の妬みや嫉みから来る嫌がらせ、鳴き声や大暴走(スタンピード)による領民への被害をも呼び寄せた。その分の補償はいただきたい。


 全部持ち出してしまうとブラックドラゴンが倒されたことに気づかれて、いらない騒動が巻き起こりそうなので、今の私や伯爵領に役立つものを探す。

 とはいえ、魔石化したドラゴンから血は取れないのよね。

 ……仮死薬ないかしら?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ありました。


 仮死薬と仮病薬、それからいくつかの良さそうな宝物を手に伯爵家の屋敷に戻っていたら、白馬に乗ったレニー様とすれ違った。

 侯爵領は伯爵領のすぐ隣にある。

 どうしたのかしら。魔術学園の卒業式はまだ先だし、王都には愛人がいる。家まで買ってあげた愛人を置いて、私の実家を訪れるだなんて。


 子どもができたから正式に彼女と結婚したい、なんて申し出をしに来てくれたのなら嬉しいのだけれど。

 ……あ。今あの方、隠密の腕輪の影響で私のこと覚えてもいない状態でした。


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