10
ショーの音楽で聞こえなくなるギリギリまで、マクスウェルは声を落とした。
「奴は、もうすぐ取引する。『惑星爆弾』を売り払う気だ」
「なるほど、金に換えるつもり?」
「ああ、買い手も見つかった。犯罪組織『バイパー』さ」
「そいつらの噂は聞いたよ」
チャツネが眉をひそめた。
「ずいぶん、悪どいらしいじゃん」
「儲けるためなら、傷害、強盗、殺し、何でもやる。奴らの活動範囲はやたら広くて、星域連合の各司法機関も、かなり手こずってる」
「『バイパー』は『惑星爆弾』で何をするつもりなの?」
「それは分からない」
マクスウェルが首を横に振る。
「とにかく、ランスを殺ろうと思ったら、『死神団』だけじゃなく、『バイパー』とも、やり合う可能性がある。今からでも遅くない。依頼は断ったほうがいいな」
今度はチャツネが首を振った。
「それはない。一度受けた依頼は、依頼主の契約違反がない限り、やり遂げる。ブロウウィン家の掟だよ。ね、じいちゃん」
チャツネが横を向くと、ガツビィの姿は無かった。
「あれ? じいちゃんは?」
マクスウェルがチャツネの背後を指差す。
「あそこに居るぜ」
いつの間にか席を立ったガツビィは、セクシーなダンスを披露する踊り子たちのそばで、かぶりつきで観賞していた。
「じ、じいちゃん!」
「さすが『宇宙一の殺し屋』だぜ」
マクスウェルが片手で顔を押さえ、天井を見上げて爆笑した。
周辺の星々の交通の要となる惑星クレルラモンの宇宙港倉庫街。
照明の薄暗い、その一角で、チャツネとガツビィは、いくつもあるコンテナのひとつの陰に身を隠していた。
マクスウェルの情報によると、この時間の、この場所で『死神団』と『バイパー』の取引が行われるらしい。
チャツネは両眼の部分を覆う小型のゴーグルを装着していた。
ゴーグルから伸びたコードが、プラグによって、首のソケットに差し込まれている。
「さてさて。頼むよ、ポッドちゃんたち」
チャツネの背負ったバックパックから、直径10㎝ほどの球体が3個、飛び出した。
チャツネと繋がったゴーグルを介して、自由自在に制御できるサポートポッドだ。
「まずはステルス発動」
ポッドが光学迷彩によって、透明になった。
これで相手に気づかれず、偵察することが可能になる。
「さあ、ランスを捜して」
チャツネのかけ声と共に、ポッドが散っていく。




