示尾之事
示尾は鬼市で迷子になっていたのを知り合いが保護して俺の元へ連れてきた。
一応、本人と話せたので名前を聞いたがよく聞き取れなかった。「ジオ」と聞こえるので、彼の雰囲気に合ってると思った同じ読みの漢字を当てた。
現し世は彼の肌に合わなかったのだろう。元々話す言葉も違う様だったし、ある程度の歳になるとすぐに独立し、隠り世へ戻ってしまい、それから連絡を取ることはなかった。
しかし、己達が捕らえられる時に那由他が土壇場で式神を送った相手は彼だった。
あの時は家の周りごと逃げられない様に結界の様な物を貼られて、その中からは隠り世への門がひらけなくなってしまっていた。
当時、家にいたのは己、京、夜、天、葉奈、那由他、そして陸の全部で七人だった。
軍なのか警察なのか知らないが、捕らえに来た二十人ほどのうち、七、八人を普段から刃物を常備していた天が殺していまった。元々小柄だったのと大人数相手で息が切れた彼女一人では最後までは持たなかったし、捕まった後もいつまでも相手を罵るか、悪態を吐いていた。おかげでこの時の記憶のほとんどが天の暴言になっている。
この時にまだ角の生えてなかった陸だけは人間と見せかけて逃がした。
すぐに家を囲むように柵が作られて、そこを処刑場として使われた。
処刑される日、見物に来ていた群衆に紛れて陸かいた。
おそらく、一週間は経っていたであろう。あのまま、着の身着のままで放り出されて、行く当てもなかったので少し痩せてはいたがなんとか生き延びていてくれていたので安心したが、目がギラギラしていて隙あれば阻止しようと突っ込んで来そうで心配だった。
処刑は斬首で並べられた通り順で己が最後だった。
最初に京の首が落とされて、次の者に…という時に飛び出そうとした陸を首の後ろから地面へと押し付けて誰かが止めた。示尾だった。
二人は入れ違いに己の所にいたのでお互いを知らなかったはずだ。陸はなぜこの男が自分を止めるのかが分からないからか示尾を睨見つけていた。
斬首された後に家に油を撒かれて燃やされた。
亡骸は燃える家の中へ投げ込まれた。きっと人間を焼くのと同じ匂いが広まったのだろう。
首だけになっても暴言を吐き続けた天の声が聞こえなくなると連中等は早々と切り上げ、匂いに耐えられなくなったのか徐々に野次馬もいなくなった。
日が暮れる頃にはすっかり焼き尽くしてしまい、陸と示尾の二人だけが残っていた。
示尾がまだ熱い焼け落ちた家から己たちの体を探し出していた。
それを近くで陸が見守っている様に見えた。
この短時間で起きた事を受け入れがたいのか、陸が気分悪そうに、目を死体の方を向けているが、焦点が合わないようにしている感じだった。
「にゃー」
陸の足に卯ノ花がまとわりつく。この時はまだ化けることの無いただの猫たった。
すっかりとみすぼらしくなった陸がその場に腰を下ろすと彼の膝にさっと卯ノ花が座った。気を紛らわしたかったのか陸は珍しく純白の猫を撫でてやっていた。
全ての死体を引っ張り出した示尾は陸のほうを向いた。
「どうしたい?」
「どうしたいってのは?」
「全部、埋めるので良い?」
「えっと…」
いきなりこんな決断をしろと言われて陸は返事が出来ない様だった。
「じゃあ決める。勝手にする。」
示尾は一つの焼けた頭と体を持っていくと陸から見えない位置へ行ってしまった。
おそらく那由他のだろう。
黒焦げで美味くないであろうそれをバリバリと食べていた。
あれだけの音がしてたので陸も何をしていたのか察しがついたのか硬直していた。
その後、他の死体を示尾が埋めだすと途中から陸も手伝い出し、夜が明ける前には全て埋め終えた。
そこは後に陸が出す『鬼 屋』の敷地側の出入口の側のそばだった。
目立たない様に、けれど自分たちは分かる様に一人に一基で墓を作っていた。
「本当に門開かない。」
示尾は鬼門を開こうと、何度も手を振り上げたりしていた。本当に柵の内側からは現し世と隠り世への往来ができなくなった様だった。
「柵を境に付いてる嫌な物…魂だけ出られないは質が悪い。」
二人の様子を見ていたので気付かなかったが殺された子たちは出ようとしていた様だった。
示尾が那由他の魂を見つけて歩み寄ったが、魂の方が少しずつ離れていった。
「魂までは食べません。ただ、こうなるって知ってたら………。」
陸に聞こえ無い様に示尾が那由他の魂に向かって話していたが、最後の方はよく聞こえなかった。
「さあ行く。」
示尾は嫌がった陸を持ち上げて、柵の外へ出た。
「お前ダメ、連れてけない。」
それを二人の跡を追って来た卯ノ花にそう告げると隠り世へ渡ってしまい、それが己が示尾を見た最後だった。




